1-01 入学しました

驚いたことに、ダンブルドアはホグワーツ特急に乗る当日の朝にまで漏れ鍋へ訪れた。
特別なホームへの行き方を散々復習し、夜にはまたホグワーツで会うというのに心配そうなダンブルドアに見送られて二人は漏れ鍋を出た。


その結果。


「…発車2時間前に着いてどうするよ。暇だよ」

「ふふふ……マジ暇」


ホームのベンチをひとつ占めて、人混みどころか二組の家族しか見当たらない「9と3/4番線」のホームを眺めながらナマエは半ば悪態をついた。遠い目をして笑うユカはちょっと怖い。

時間が余りすぎて、座りたいコンパートメントを吟味すらした。そして確保済み。


「そういや寮はどこになるんだろうね」

「…寮か。考えてなかった」

「バタバタしてたから」


話題を振ったユカはもとより、ナマエもしばし考え込む。


「あからさまにどこかの寮寄りの資質だったら、口挟むヒマはないよね」

「帽子がすぐ叫ぶだろうね」

「ハリーみたくいくつかの資質持ってたら、こっちに選ばせてくれるんかな」

「かもね」

「…資質に逆らっても選ばせてくれると思う?」


ユカの言葉を上手く飲み込めず視線をやると、ユカは「例えばー」と宙を見上げた。


「ほんとはハッフルパフの資質なんだけど、わたしが帽子被るなりグリフィンドールに入りたい!ってめちゃくちゃ訴えたら、グリフィンドールに入れてくれるのかなあ」

「…それは…どうだろう」

「だって、その人が何を選ぶかが大事なんでしょ?」

「じゃあ帽子の意味は何よ?」

「…自分で寮を選べない人の為の自動組分け機?」


ナマエは笑った。そんな評価でいいのか。グリフィンドールの剣をその内に隠しているような重要アイテムなのに。

言いながら自身も笑っていたユカは気を取り直して話題を戻した。


「で、もし選択の余地があるんなら、ナマエはどこ行く?」

「そーだね…どこかな。ユカは?」

「ううん…。どのくらい話に介入するかによると思わない?」


ナマエは周囲を見回して、ささやく程度にまで声量を落とした。


「話って“ハリポタ”?」

「もちろん。がっつり関わるんならグリフィンドールでしょ、関わりたくないんなら…えー、レイブンクロー?かな」

「…ああ、ハッフルパフは4巻で…」


セドリックが、と囁いて、ナマエは一度言葉を切った。
ホームにざわめきが増す。時間に余裕を持って到着する家族が増えてきたらしい。


「コンパートメント入ろうか」


コンパートメントだなんてまったく言い慣れない、と思いながらナマエはベンチから立ち上がった。


**


列車に乗り込んだはいいものの、それからすぐ生徒が増えてしまい、ナマエとユカのコンパートメントにも相席希望の子が来てしまったので原作のことは口に出来なくなってしまった。

相席になった二人も新入生だというので挨拶をしたり未知の授業について話しあったり、話題は尽きない。
寮の話も出たが、ユカとナマエが希望の寮をはっきり口にすることは結局なかった。


**


大広間。


ユカの頭に乗った古い組分け帽子は、あまり時間をかけず「グリフィンドール!」と叫んだ。

少なくとも時間を要したのだから、ユカは帽子と話す機会を得ただろう。グリフィンドールはユカの希望した寮のはず。

グリフィンドールのテーブルに向かいながら軽く唇を持ち上げてみせたユカに、ナマエは確信を得た。
資質からしても、たぶん彼女ならどこの寮にでも入れただろう。やはり彼女自ら選んだのだ。


ナマエは教員の席を見渡した。
ダンブルドアが微笑む。


「ミョウジ・ナマエ!」


ナマエは進み出て椅子に座り、マクゴナガルが帽子を乗せるのを待つ。
…ダンブルドアの目がキラキラしていた。微妙にプレッシャーだ。


『さて…おお、君も東洋の生まれなんだね?先ほどの子とよく似ている…とんとお目にかからない、複雑で繊細な資質だね。そして柔軟だ』


わたしが複雑で繊細で柔軟?
ナマエは小さく唸る。どうも気恥ずかしい。

それが一体どこの寮に当てはまるのだか知らないが、即座に寮の名を叫ばないならこちらの選択を考慮してもらえる余地はあるのだろう。

強く念じると、帽子は些か躊躇ったようだった。


『それは本当かね?それは…その寮は、君にはあまりそぐわないと思うのだが』


そうだろうけど、それでいい。ナマエはもう一度寮の名を強く思った。
帽子が苦々しく『…それが君の選択ならば』と呟く。



「スーリザリ――ン!!」



マクゴナガルが帽子を持ち上げる。上級生らの拍手。
開いた視界にぎょっとした表情のユカを見つけ、ナマエはとても満足して笑った。


席に着いて振り仰ぐと、ダンブルドアはさすがに満面の笑みとはいえなかった。複雑そうに、しかし微笑んでナマエに拍手を送ってくれる。
まあ実際スリザリンにいれば闇からの誘いも多いだろうし、手放しで喜んではくれないか。
ナマエも多少申し訳なく思いながら苦笑を浮かべた。


そしてハリー・ポッターはグリフィンドールに、ドラコ・マルフォイはスリザリンに組分けられる。原作の通りに。


どんなふうに原作に介入していくか、そのうちユカと話し合わなきゃいけないなと思いながらナマエは現れたご馳走を見た。

…厨房で和食をつくる機会についても打診すべきだろうか。
近いうちに胃がもたれそうだ。

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あきゅろす。
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