03 みまもる
『じゃ、きちんとテレビ見ててね』
「はいはい、クイーン戦の後ですよね。しのぶちゃんが早めに勝ってくれるといいですけど」
『ほんとに…ほんとにね……』
「あああテンション下げるのやめて!名人の晴れの日でしょう!ちゃんと見てますから!」
『あ、録画もしておいて』
「…なにぃ!?自分で観る気ですか!?」
『それもあるけど…。僕の公式試合、今日しか見れないのに、流して終わるつもりなの』
「つったって…わたし周防さん直々に指導受けてんのに。一応録画はもうセットしてます」
『…ふふ。よかった』
「…ちょ、そっち役員の人が呼んでません?声聞こえるんですけど」
『………ちっ』
「舌打ち!許可取って電話してんじゃないんですか、隠れてんですね!?もーわたしテレビ見ますから!電話切りますよー」
『ああっ来年は君も一緒に近江神宮来るんだからね!クイーン戦挑戦者なってよ!』
「はいはい頑張ります!行ってらっしゃい!」
『くぅぅ……行ってきます』
「はーい」
向こうから通話を切ったのを確認し、なまえもまた電源ボタンを押してケータイを閉じる。
思わず長ーいため息が出た。
「くそ、我が師匠ながら呆れたもんだよ…」
今朝も寒い。温かい飲み物やご飯やらを色々準備して、なまえはテレビの前に座り込んだ。
今頃かるた会役員の人に引き摺られているだろう袴姿の周防さんを思うと、リラックスした自分の状況が倍ありがたくてニヤニヤした。
こんな時ぐらいビシッときめて頑張れってんだ、周防さん。
しかし来年、袴姿で自分もあの場所にいるのだろうか。今年もきっと連覇の若宮詩暢を前にして。
来い、と名人は言うけれど。
「わたしがクイーン戦で名人戦の放映時間削るってことだよなぁ」
それはそれで怒るんじゃなかろうかあの人。それとも大差つけてぱぱっと終わらせろ、とか無茶なことを言うだろうか。
…ものすごく言いそうだ。嫌すぎる。
でもまあ仕方ない。いろいろと。
なまえは焦れったくなって、テレビに向かって口を開いた。そのうちそこに映る人へ。
「がんばるからちゃんと待っててくださいよー!」
あなたがそこで退屈してるから。名人という座の孤独、向ける相手のない実力。
バカらしい。一人にさせるものか。
時計を見ると、クイーン戦放映まではまだしばらく時間があった。
…ま、早い話女の子の袴姿の方が見てて嬉しいっていう、ね。
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