大門くんとクリスマス:)

入学したての春ではなく、冬に行われる学年研修。つまり学年でお泊まり、自然体験に魔法研修。
季節柄、素敵なイルミネーションが見られると毎年評判のリゾートホテルを聖凪高1年生は十分に満喫していた。
魔法磁場を整えられた施設が一つあるというから、ホテルのトップと校長に繋がりがあるのも頷ける。


夕食後は就寝時間まで自由だが、何だかんだで誰かの部屋に集まってしまうのが学生だ。お菓子を持ち寄って、誰かがトランプやウノのひとつでも提供すれば結局クラスでパジャマパーティーを開くも同然。

3戦目のウノを4位で抜けたところで、ポケットに入れていたケータイが震えた。見てみれば大門からのメールで、本文は簡潔に「イルミネーション見に行こう。出ておいで」とだけ。
え、と思って部屋を見回すと、向こうでトランプに参加していた大門はいつの間にかいなくなっていた。…なんて周到な。

誰かに声を掛けるのも面倒を招きそうで、名前はこっそりと賑やかな部屋を出た。
ドアを開ければ、コートにマフラーをしっかり着込んだ大門がケータイを片手に待っていた。パーカーにジーンズの名前を見て顔をしかめる。


「タカ。いつの間に外に」

「トランプは大富豪を一度やって抜けたよ。…見れば見るほど寒そうだ、とりあえず名前の部屋行こう」


すぐそこなのに大門はわざわざ名前にコートを着せて、入り口に立ったまま名前を待った。中まで入ってこないのが大門らしい。
外はきっと恋人だらけだろう。名前は少し考えて明日着る予定だったコーディネートを引っ張り出し、急いで着替えた。


「ごめん、お待たせ!」


慌てて駆け寄ると大門はひとつ瞬きをして目を逸らし、「あー」と手を口元にやった。


「…か、可愛い、と思うよ」


幼馴染みなのに改めてそんなこと言われると、恥ずかしい。言う方も恥ずかしいのだろう。


「ありがとう。タカもかっこいい」


私服にコート。名前は心を込めて言った。この幼馴染みは、本当にかっこいい。
大門はくしゃくしゃと髪を掻き混ぜたかと思うと、「あーもう」と吹っ切って名前の手を握った。


「行こう!」


**


大きな大きなマザー・ツリーや、その下に広がる屋内プール、プールに架かった橋、プールサイドと繋がっているレストラン。
平日だけど思った以上に人がいて、皆幸せそうに話して、笑って、カメラに向かってピースする。家族連れも多く、賑やかな中を大門は名前の手を引いて歩いた。


「すごい…!」


一つひとつに二人して立ち止まり、心行くまで眺めた。頬を染めて心底嬉しそうにする名前を見ているとこっちまで口元が緩んでしまうし、先導する大門の横顔はそれはもうかっこいい。相乗して、幸せが蓄積していく分にはどこまでもきりがなかった。

マザー・ツリーを満足するまで見上げた後、二人はプールサイドに降りた。架けられた橋は19時から20時までと、21時から22時までの間しか入れない。何の偶然か、ちょうど21時になった今、優しそうな警備員がイルミネーションで出来た扉をそっと開いた。待ち構えていた子供たちが歓声を上げて入っていく。

それを追う親らしき大人たちがあらかた入り口を抜けた頃、大門と名前は目を見合わせて、小さく吹き出した。今の橋の上はロマンチックどころか賑やかな子供の遊び場だ。


「さて?僕らも行こうか」

「あの子たちに混ざって、ね」


幻想的なムードも吹き飛ばすこんな空気でさえ一緒に楽しめてしまうのは、やっぱり相手が幼馴染みだからだろう。
二人で笑いながら橋に乗り、一層素晴らしいイルミネーションを楽しむ。


「あの」

「はい?」


ふいに声をかけられたのは名前の方だった。振り向くと、眼鏡をかけた知らない男性が申し訳なそうに微笑む。その手に立派なカメラを見つけて、名前は話しかけられた理由を悟った。


「もし良ければ、シャッターを押してもらえませんか?」


男性の後ろでは優しそうな綺麗な女性と、可愛らしい女の子にそれより小さな男の子がこちらを伺っていた。目が合って、女性が微笑み会釈する。


「あ、えっと、もちろん!でもカメラが…タカ、このカメラわかる?」

「ん?…わ、すごい、一眼レフか。ああ、じゃあ僕が撮っても構いませんか?」

「お願いします」


とても立派なカメラを、大門は丁寧に受け取り、構えた。
名前は数歩下がって待つ。


「いいですか?…はい、チーズ」


何度かシャッターを切ってカメラを返すと、男性はとても嬉しそうに「ありがとうございます」と繰り返す。


「お礼に、良ければ、これを」


そう言って差し出されたのはハート型のプレートだった。紙で丈夫に作られていて、銀のヒモが通されている。イルミネーションのあちこちに下げられているものだとすぐに気付いた。
好きなことを書いて吊るすそれはほとんどが願いごとで、幾つものプレートが風に揺れてイルミネーションを飾っている。


「いいんですか?」

「ええ。家族の人数分もらったんですけど、余ってしまったので。お二人で是非」


これもどうぞとペンまで手渡される。男性と女性はもう一度会釈をして、「マザー・ツリー行こう」と急かす子供たちを連れて去って行った。

大門の手に乗せられたそれを眺める。プレートには銀の縁取りがされていて、それだけでも綺麗な飾りになりそうだ。
名前は目を輝かせた。


「優しーい…!」

「せっかくだから書こう、名前。あっちの時計台はどう?」


二人はイルミネーションで出来た時計台の下に移動した。同じプレートが何百も揺れて、光を柔らかく反射させる。


「願いごとはこれでいいだろ?」


大門は迷わずペンを滑らせた。ニッと笑って見せられたプレートを見、名前は笑って頷く。
ずっと一緒にいられますように。

大胆にも二人の名前と日付を記して、イルミネーションの小さな電球と電球の間に結びつける。
明日、聖凪の誰かがプレートをじっくり見てみようなんて思わないといい。


にこにことプレートを眺める名前をしばらく見ていた大門は、小さく溜め息をついて名前の手を取った。指先に唇を落として注意を引き、頬に手を添えて反対側の頬に素早く口付ける。
名前は小さく息を呑んだ。こんなに人がいるのに!
案の定今の流れを目撃したらしい周囲のカップル…の、主に女性から、わぁっと小さな声がいくつも漏れた。

恥ずかしすぎてヘナヘナとしゃがみ込んでしまった名前の側に大門も膝を着く。


「好きだよ名前。好きだ」


周りには聞こえないくらいの囁き。いつの間にこんなふうに声が低くなっていたんだろう。
真剣に覗き込んでくる大門の瞳にイルミネーションが映って、大人びた頬を光が照らして、どうしようもない。
せめて、と滲む視界のまま、名前は頷いた。大門がほっと息を漏らす。


「イルミネーション、まだ見るだろ?…ほら」


大門が差し伸べた手を取り、立ち上がった名前は、離れたところにC組の委員長とその横の男子生徒を見つけた。お互いのために、お互いに気付かない振り。

そうだね、まだ夜は長い。名前はお返しに握った手を引き寄せて唇を押しあてた。

ぎょっとした大門が振り向いて頬を赤くしたので、名前は声を上げて笑った。




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