100328 あなたと沈む透明の

ふと、意識がはっきり。
瞬き、周囲確認、



「…………。」



またか。

名前は溜め息をついてずっとずっと上を見上げた。どこが水面がわからないほど深い海底のくせしてそこらが適度に明るいのは、やっぱりこれが夢だからだろう。ほんとの海なら二十メートルも潜ればそれなりには暗いはずだ。


夢は脳で見るもの。
ワンピースの世界に来たことが、わたしの脳にどんな影響を与えるというんだろう。なんでこんな夢見るんだろう。この夢これで何度めだ。


座っていた遺跡らしいものにゆっくり寝そべる。

別に、この夢の中で悪いことがあるわけじゃない。身体は普通に動くし呼吸も出来る。情景も毎度僅かに異なってるし、何より揺らめく様は綺麗だ。加えて、気が狂うほど飽きる前にちゃんと目が覚める。


ただ、いつも一人なのだった。



「………」



ワンピースの世界には大陸はレッドラインだけだというし、つまりこの星のほとんどは海であって、そのせいかなあ。海の夢を見るのは。

一人でいてその上に静かだと、くだらない考えごとくらいしかすることがない。何も遮らない。


CP9んとこのあの子はちゃんと元気にやってるかなぁ。ルフィんとこのは、赤髪は。何で知り合い同士で来訪者なのかなぁ。他の所にも誰か来訪者来てるのかなぁ。いるとしたら誰だろうな、もしまた知ってる人だったら。

向こうの世界で、家族は元気だろうか。


ぞくん、と背が震える。
名前は横に寝返りを打った。身を縮こませる。



「うぇ、…うぅ」



来た頃は把握と慣れることに精一杯なだけだった。
心に少し余裕がある今、会えもしない健在だとも伝えられない家族への想いは募りに募ってギシギシと胸を軋ませるようになった。

そうと分かっていて独りきりのこの夢でわざわざ、バカかわたしは。
ああ、布団があればその中にくるまってしまえるのに。くるまりたい。


早く目が覚めればいい。
覚めろ覚めろ覚めろ。起きろわたしの身体!
念じてはみるがあまり期待は出来ない。覚めたい、と思って起きれた試しは残念ながら一度もない。


さらにぎゅうっと身を縮めて縮めて、嫌な感覚にひたすら耐えた。震えが止まらない。



しばらくそのままでいて、いっそ全力で走り出した方が気が紛れるんじゃないかと思い始めた頃、唐突に力強い手がわしゃわしゃっと頭を撫でた。



「あららら…こんなに震えちゃって。大丈夫?」



聞き慣れた声が降ってくる。安堵がどっと身体を満たした。身体から力を抜いて起き上がろうとすると、その前にぐっと抱き上げられる。
いつもの海を背景に、



「青、雉さ、」

「うん?」



夢だからか、その人の体温とかは感じられなかった訳だけど。
すぐ側にあのアイマスクと見慣れてきた顔を見て、視覚からの影響は大きかった。



***




「……う、」

「名前、…名前。大丈夫?」

「…んん……?」



気が付くとベッドの上だった。とっても暖かい。辺りはまだ暗い。
寝てたんだ、とわかると同時に見ていた夢の不安と安堵が一気に押し寄せてごちゃ混ぜになって、平静というものを忘れた。

それを処理しきる前に目を開ける。こっちの、現実の方が大変そうだ。何故なら直接触れてくる体温に、掠れた低音で鼓膜を震わす音声。
直接。…直接。



「……青雉さん…」

「良かった、起きたの。悪い夢見てた?うなされてたんで起こしたけど」

「………。なんで、一緒に、寝てんです…?」



名前は寝たまま遠慮がちに聞いた。上半身だけ起こした青雉は、あー、と漏らして少し考え、ごそごそと体制を直すとまた枕に頭を沈めた。



「まァいいじゃない」

「………」



いいわけあるか、と名前は思ったが、突っ込む気にはならなかった。夢で精神的に疲れてもいたし。まだぼんやりするし。とりあえず間違ってもアヤマチとかじゃないみたいだし。

さっきの目覚めのショックが落ち着いてきた名前は、再び目を閉じてそっと息を吐いた。
隣の青雉が毛布を掛け直してくれる。その毛布の下で、青雉は名前の身体を引き寄せた。

夢の中で助けてくれた青雉。
今度はちゃんと暖かい。それがとても満足で、名前は青雉の首元に顔を寄せた。上で青雉が「あららら、甘えた」と呟いている。



「ま、もう悪い夢なんか見ないでしょうよ。おやすみ」



くしゃくしゃと頭を撫でてもらいながら名前は目を閉じた。


またあの夢を見ても、今度はコントロールしてみよう。青雉さん呼び出せるかもしれない。
きれいな魚も泳いでればいいね。



あなたと沈む透明






あきゅろす。
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