xxxxxx お湯に流された超新星爆発(ギャング)



わたしの人生って何だ。

大学で勉学に励み必要分の単位をとり、卒業して安定した良い仕事に就く。良い仕事とは?仕事内容と量が適当で給料がある程度あって、休みを取る制度がしっかりしている。ちゃんとボーナスがあればなお良し。
苦労もあるだろう。勉学を続ける苦しみ、姿の見えない自分と同じような大勢のライバル達と高い競争率。職場での人間関係。
一方で、生涯の友に恵まれるかもしれない。また恋愛を経るかはさておき、多分結婚もする。新しい命を腹に抱え、痛みに堪えて生み育てる。自分のことだけに時間を割けなくなる。育ちゆく子に多くの喜びをもらう。わたし自身が小さな小さな不要かと錯覚するほど小さなネジである社会へ子を送り出す。

これから70年もしないいつの日かわたしは死ぬ。思考も記憶も人生の喜びも悲しみもわたしが生きた過程の全ては無となり、子や周りの人々や暮らした街は活動を続け、ある時それらも死にゆき、関わったものはわたしがそうであったように生き続け、変わらず地球は回り、ヒトの営みは続き、新しい技術が生み出される。南極の氷は溶け続け、オゾンホールは拡大し、弱い生物から死に絶える。地球は荒廃し、人類は月や火星へ逃げるだろうか。いつか地球は星としての死を迎え、太陽も滅びゆき、進化を続ける人類も果てには絶えるだろう。
宇宙は太陽系の死などものともせず膨張を続け、数多の星が生まれ死に逝き、そのどれかには地球のような星があって、生物がいて、生きることについて悩んでいるかもしれない。あるいはわたしの知らない四次元へと足を踏み入れ、宇宙の外をも解明するだろうか。



わたしの人生って、何だ。





***



「ってことを延々と」

「ええっ名前ちゃんいつもそんなこと考えてるの!?お風呂入る時に!?」

「まさか。昨日は何となくそんな気分だったんだよ」

「すごいな、此処に来て響野の話を聞くよりずっと知的じゃないか」

「いーや、名前もまぁいい線いってるようだがまだまだ人生経験が足りん!知性は経験の積み重ねだからな。まったく成瀬は頭がガチガチだ、これだから公務員は。私の話の魅力を捉える柔軟性を一体どこで落として来たんだ?市役所か?」

「落とし物もたまには役に立つものだな。誰かが拾ってないことを祈ろう」

「まったく、スーツが嫌で自営業にした人が何を偉そうにしてるんだか。ねぇ名前ちゃん」

「おい、その偉そうな人のプロポーズに承諾したのは誰だ?だいたい風呂ってのは清潔を保ち一日の疲れをとるために入るもんなんだ!何だって入浴中にまでそんなことをごちゃごちゃと考える?泡をたてるのに宇宙の膨張は要らんだろうが」

「はぁ…(反論しんどい)」

「響野さんが入浴とか言うと何かエロいなぁ。犯罪の匂いがする」

「それはどういう意味だ久遠!」


お湯に流された超新星爆発




自発的に蚊帳の外にいる成瀬は、言い合いを始めた響野と久遠には届かなさそうな声量で指摘した。



「俺たち四人とも既に立派な犯罪者だってことを忘れてるぞ久遠」

「響野さんは猥褻罪で刑罰割り増しかなぁ」

「そうかもしれないが、それは残念ながら捕まってしまった時の話だ」

「あぁ…それは残念」



言いながら名前は満足気に笑い、成瀬も「可能性はゼロじゃないが、あってほしくもないな」と騒ぐ二人を眺めて笑った。



銀行強盗は四人いて、しかもそれが彼らだから、きっと警察が喜び勇んで手錠を掛けることの出来る日は来ない。
そしてわたしは就職も宇宙も忘れておかしな銀行強盗たちの傍で毎日幸せを噛み締める。



(そういう人生もあるよね)



上々じゃないか。
とりあえずひとつ結論が出た名前は安心して欠伸を一つ噛み殺し、寝不足解消のために人間嘘発見器の隣でテーブルにうつぶせて目を閉じた。




あきゅろす。
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