090331 作為的ベクトル


寒くなってきた、と名前は思った。


部のテープやら消毒液やらプロテインやらを買い込んだ帰り道。
広い並木通りをこれ幸いとばかりに、横一列に右から峨王(荷物持ち)、マルコ、名前、如月、氷室先輩。
言い換えると怪獣、イタリアン、一般人、美男子、美女がずらっと通りの6分の5ほどを塞いで歩いているわけで、すみません。そりゃ注目もされるっちゅーハナシ、だよね。


寒くなってきた、のだ。
名前は両サイドに小さな震えがバレないよう、如月と話しながら平然を努めた。
ちらっと左端の氷室先輩を見てみる。先輩は凛と澄んだ表情で宙を眺めている。ふぅと漏れる息がほんのり白い(ああ、絵になるなあ)。


如月との会話のタイミングを見計らって、名前は不意に左斜め後ろの地面に目をやって足を止めた。いかにも何か見つけましたという風に。
如月も少し遅れて立ち止まり、どうしたの、と優しく首を傾げて尋ねる。
名前は尚も数秒地面を見つめ、それからパッと破顔して如月を振り向く。



「ううん、何でもない、気のせいだったっぽい。ごめんね」

「そう?」



名前は如月の隣まで数歩分駆け寄った。如月も微笑んでゆっくり歩きだす。
峨王はともかく、マルコや氷室先輩はこちらを気にしながらも先を歩いていた。
急いで皆に近づく振りをしながら、マルコたちの横には戻らないよう気をつけて遅れを保つ。自然と如月も名前の横を歩いた。


横一列だったものが前後二列になり、それが戻ることなく安定してくると、名前と如月の抜けた妙なスペースを、無意識だろうか、マルコが少しずつ無くしていく。
気がつけば氷室先輩も少し右寄りに歩いているから、ヒトの習性のようなものなんだろう。名前は慎重に様子を見た。


少しして、氷室先輩が小さく肩を震わせて一、二度腕を摩るようにした。当然それを見逃すマルコではない。氷室の仕草にピクリと反応したマルコの視線を見届け、名前は安心して前の背中から目を離した。(しかしその後、マルコに何故か一瞬戸惑うような違和感があったと如月は思った。)
ん?と如月が首を傾げる前に、マルコはまだ僅かにあったスペースを一歩でスッと詰めて、羽織っていたブレザーを氷室の肩に掛ける。
氷室は反射的にマルコを睨むように見上げたが、すぐに小さなため息を吐いて「ありがとう」とマルコから視線を外し、ブレザーを羽織り直した。
マルコは「どういたしまして」と呟いて肩を竦め、

ちらりと、名前を見た。
(と分かったのは変わらず前を見ていた如月だけで、名前は余所見をしながら寒さを紛らわせようと右手で軽く左腕を摩っていた。)


マルコは軽く眉を寄せたが、目が合った如月に首を横に振り、再び前を向いて氷室に何事かを話しかけた。


右手で左腕を掴んだままの名前を見下ろして、如月は少しだけ悲しくなる。

マルコは、名前にブレザーを貸すなと自分に指示したのだ。確かに自分には、人に防寒用具を譲ってやれる余裕はない。僕がこんなにか弱い体でなければ、マルコくんのように苗字さんを守ってあげられたのに。ごめんね。
あともう一つ、

(苗字さん、マルコくんが自分にブレザー貸さないようにって寒がってるの隠したんだろうけれど。今見られちゃったから、我慢してるのバレてしまったよ)


結局、名前に我慢させるしかないマルコはわだかまりを抱えたろうし、名前も寒さに耐えて歩かなければならない。

何故だか、そうするしかないのだ。女の子2人が寒そうで、男3人が同じ場にいる。ちゃんとやりとりをして今よりもっといい形になれるはずなのに、このまま学校まで歩み続けるしかない。
前3人、後ろ2人。マルコくんと氷室さんは微妙な駆け引きをしているし、僕らはただ当たり障りのない会話で笑顔なばかり。


どうして今、この形でいるしかないのだろう。悲しいよ。











(私が寒いなら同じ制服の氷室先輩だって少なからず寒いよね…。マルコくんは隣の私をさしおいて左端の氷室先輩にブレザーを掛けてあげることなんて絶対にしない)

(マルコくんの隣に、氷室先輩を持ってこなければ。それまでは私の震えがマルコくんにバレちゃいけない、氷室先輩にも優しい如月くんにも)

(ほうら白秋のきれいなカタチ)

(…寒い、な)






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作為的の作為はヒロインのもの
マルコとマリアが共にあることが白秋のあるべき形と思っていたり何だったり
マルコとしては大事な人が変わりつつあるから、マリアを気遣おうとした瞬間に気遣う相手がヒロインでないことを理解して反射的に待ったがかかった、みたいな
なんとなく気付きつつある如月、そして荷物持ちとしてしか出てこない峨王ごめん\(^o^)/

ちょいとシリアスめですが、そのうちヒロインの思い込みもぶち壊されてくっつきますから^^
蛇足でした


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