090101 初詣


日付が変わった瞬間に大声で「ハッピーニューイヤーァァ」と叫びながら賽銭を放り込み始め、賽銭スペースの前でごうごうと騒ぎだした西部ワイルドガンマンズ。
その後ろで、キッドはやれやれとため息をついてテンガロンハットを被り直した。避難と迷子防止を兼ねてキッドの上着を掴み傍に立つ名前は、白い息を吐いてマフラーを鼻の上まで引き上げる。雪の降りそうな冷え込みだ。



「まったく…楽しそうだねえ、あの人らは」

「本当に。比奈さん寒くないのかなぁ」



いつも騒ぎの中心にいる牛島ら3年なんかはともかく、西部スタイルの比奈やクールさが人気の陸まであの乱戦に参加しているから驚きだ。一体どの要素に火をつけられたのか。賽銭を投げるだけなのに。


見渡す限り参拝客、参拝客。この賽銭スペース前の場所だけでもざっと200はいると思われるが、恐ろしいことにこの後ろには500メートルもの列が出来ているらしい。聞けば元旦で百万人もの人が訪れるという。道理で身動きもとれない人混みなわけだ。


キッドは前へ行くのは諦めて、その場から賽銭を投げることにした。そう遠くない、適当に投げれば必ず入るだろう。
「よ、」硬貨を投げたキッドを見て、名前もポケットから硬貨を取り出した。しかし投げようにも名前の身長ではこの雑踏で振り被ることも出来ない。
眉を寄せて手のひらの硬貨を睨む名前を見かねて、キッドが手を伸ばした。



「失礼」

「う、わ!?」

「これなら投げられるでしょ」

「あ、なるほど」



その腕で軽く抱きかかえたのだった。名前は驚いてキッドにしがみつくが、すぐに笑って礼を言い、片手をキッドの首へ回してもう片方の手で余裕を持って硬貨を放った。
それから辺りを見渡して感嘆の声を上げる。



「おおー、すごい!ずーっと後ろまで人がいっぱいですよ!」

「学業の神社だからねえ」

「そっか、受験生が多いんですねー!」



牛島先輩たちも受かるといいなぁ!
大声で話さないと聞こえない。いくつもの硬貨が空を飛ぶ中、名前は叫んで御宮を見上げた。声音が嬉しそうだ。楽しんでいるのか。



「今年もよろしくね、マネージャー」



唐突に言えば、名前は驚いたようにキッドを見下ろして、それからぱっと笑った。



「はい、キャプテン!」



前の方から牛島の「うおぉし、帰って練習すんぞー!!」と「「西部ワイルドガンマンズー!」」の掛け声がその場にごうと轟く。周りの人が一斉にそっちを振り向いた。
こんな夜中から練習できるはずがないのに、当たり前のように返事をするメンバーにキッドがため息をつく。名前はさすが西部と笑った。

どちらにしろ今更解散など牛島が許さないだろう。初日の出はグラウンドで見ることになりそうだ。



初詣



さて、無駄にやる気の彼らをどうやって止めよう。

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