081230 今を見ている


いつかのことを夢に見た。
頬が濡れていると、騒ぐ心臓を抑えた後にようやく気付いた朝。

怠惰にむくりと体を起こす。
ああ、学校だ。



***



「(卒業式)」



を、想った。
ここに来る前、わたし自身が経験してきたそれを、若さ故に身が裂けるような別れを、
その日を限りに永遠にこの手から失われるものを。



今、その日は、一度たりとも来てはいけない。
ここ西部高校で一度目のそれを迎えるとき、今目指している秋大会もクリスマスボウルも終わってしまっている。今は未だ結果は知らぬ、そして牛島を先頭とした3年が散ってしまう。
二度目に迎えたならば、キッドや鉄馬を中心とした西部ワイルドガンマンズによる最後の大会はもう過ぎていて、さらに彼ら、キッドはいなくなる、鉄馬も、比奈ですら、ここから。


そのときわたしの中に何が残るというのか。
同じ夢を、いつか後輩たちと見ることが出来るか?
牛島がキッドが陸やわたしたち一年生と夢見たように、わたしたちが最高学年となったとき。


(何とも絶望的な望みである、)



生まれた世界で、本当に「初めて」高校生であったとき、在校生として参加させられた一度目と二度目の卒業式は看過できた。思わずもらい泣くことはあっても来るべき日の自分たちを想うことはあっても、それは上級生たちの別れであり旅立ちであり、わたしたちは翌日もまた今までどおりに登校して辟易しながらも授業に耐え友人と笑いあうのだと分かっていたから。



しかし、



「(だめだ。今、一度たりとも、その日は)」



来てはならない。

3月1日。




遠くから名を呼ぶキャプテンの声がして、我に返った名前は水を出しっぱなしの蛇口を捻り、そっと目を閉じて開き、



「──はぁい!!」



大声で返事をした。









来てはならぬと人の声を、
時は聞かない。


非情にも訪れたそのときは、その時が、
せめて悲願を叶えた後であるように。







その為にはどれだけ辛くとも今できることは全て 、と、
名前は重いジャグを水場から引っ張り出してグラウンドを目指した。
そこに失いたくないものはある。


「重い」とへこたれた名前を、慌てて走り寄る比奈が、豪快に笑う牛島が、呆れ顔のキッドが、ワイルドガンマンズが迎えた。

今を見ている

泣いたとして涙の渇く暇もないほど



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大学生がアイシ21の西部高校へトリップ
もう一度高校生がんばります

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あきゅろす。
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