おお振りText
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ガラガラ…と扉の方からの音で意識を手元からそちらに移すと、控えめに開かれた扉から制服姿の愛しい姿が現れる。
「お疲れ様です、カグさん」
「榛名も、お疲れ」
「もうすぐ終わるんで」
「おー」
入口近くのベンチに座るのを見て気合を入れ直して、また意識を手元に集中させた。
「…カグさん?」
時計の長針が半周ほどした頃、一通りメニューを終えて声を掛けても返事はなかった。
近くまで寄って覗き込むと、ベンチに座り壁に身体を預けた状態で案の定小さな寝息をたてていた。
「カグさん…」
もう一度小さな声で名前を呼ぶけど全く起きる気配はない。
じっと見つめる。
いつもでかくてきょろきょろしている瞳が瞼に隠されて、口が半開きになってる。
目の下にうっすらと浮かぶクマをそっと撫でる。
受験勉強、大変そーだもんな。
そんな中でも、俺のわがままに付き合ってくれて
時々感じるこんな罪悪感とか、込み上げる愛しさとか、色んな感情がごっちゃになって
無防備な額に小さく口付ける。
「……ん…」
睫毛が震えて、そしてゆっくりと持ち上がる。
「……は、るな…?」
二、三回瞬きをして、ようやくその瞳が俺の姿を捉えた。
その瞳に向かってにこりと笑いかける。
「おはよ、カグさん」
「…ごめん…俺、寝てた?」
もう数回瞬きをして小さな欠伸をかみ殺して、目元に溜まった雫を拭おうと持ち上がった手を捕まえて、その代わりに其処に唇を落とした。
「…はるな、」
「クマ、出来てる」
言いかけた言葉を止める様に言葉を被せると、一瞬だけ俺を見つめてから瞳を逸らされた。
「…あんまり寝てないから」
もう片目にも唇を落とすと、目を逸らされたまま頬が赤みを帯びてきた。
「頑張るのはいいんスけど、あんまり無茶しないで下さいね」
逸らされていた瞳がくるりと戻ってきて、ふわりと解ける。
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