11周年記念物語「人魚姫の想い歌」
9
「そ、それは……」
言葉に詰まる。
(人の言う通りにして認めるのはちょっと嫌だが)ブータの言う通り、ボクは…………レンのことが好きだ。
「……それとこれは関係ない」
「関係なくても、気持ちはちゃんと伝えたほうがいいよ。レンちゃんにまだ言ってないんだろ。一緒にいることになっても、そういうことはきちんと言わないと」
ボクは今、ネコの姿をしているが、元々は人間で、とある国の王子だった。
王子としてたくさん贅沢して毎日を暮らしていたが、その怠惰な生活ぶりが空の海の魔女の怒りを買って、ネコの姿に変えられてしまった。
元の姿に戻してもらうために空の海の魔女がいる空の海へ行き、そこでブータや他の空の海の住人たち、そしてレンに出会った。
それからいろいろあって、今は空の海の住人として暮らしている。
優雅な王子の生活から、空の海の住人になった理由は……レンを好きになって、レンと一緒にいたかったからだ。
いろいろあって……まだレンには自分の気持ちを伝えてない。
いないが……元々、そんなつもりで貝殻を見つけたのではない。貝殻をプレゼントしたくて、どうせ渡すなら上質なものを探しただけで、告白したいとかで探したのでは、全然全く絶対、そのつもりはない。
それに自分の気持ちを伝えて貝殻を渡すというのは、苦手な泳ぎを特訓するよりもハードルがかなり高く、泳げるようになるくらいかなり無茶で不可能なことではないだろうか。
「文章でながーく言い訳しないで、貝殻をきっかけにして伝えてみたらいいじゃないか」
「言い訳なんてしてない。ボクたちが物語で書かれることはこれが初めてだろ。だから、ボクの状況を詳しく説明しただけだ」
「はいはい。でもさ、今回のキャラ投票で人魚姫姿のレンちゃんが一位になったし、人間の姿では七位だし……今回の投票の結果でレンちゃんと別の誰かが……って展開もあるかもしれないよ?」
「そんなことは困る! いや、そんなことはボクが絶―――――――対認めない!!」
「じゃあ、告白頑張って」
「ああ、もちろんだ! ……っていつから、貝殻を渡す話から告白することになっているんだ!」
危なかった。さすが大金持ちのブータは人を(正確にはネコを)流れに乗せるのが上手い。
危うく、流れに乗せられそうになった。
ボクのツッコミを気にすることなく、ブータが話を続ける。
「レンちゃんは優しいし可愛いし人気あるし、きちんと気持ちを伝えないと他の誰かとって本当にあるかもしれないよ?」
「ふん、そんなことは絶対にない。あるわけがない。ボクが認めない。ボクが認めない以上はそんなことには絶対にならない」
「うわー、すごい王子様理論だね」
「とにかく、レンにこの貝殻を渡す。それが今回の目的だ! いいな!」
「うん、まあそれが元々の目的だよね」
「だから、これをカッコよく渡す言葉を考えろ……じゃなくて、いいものを考えてほしい」
「うわー、さすが王子様お願いだね。……まあ。一応、お願いはされたし、一緒に考えてあげてもいいよ」
「うん……その、よろしく頼む」
ということで、ブータに渡す時の言葉を考えてもらって、ボクたちはショーコさんのお店へ向かった。
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