11周年記念物語「人魚姫の想い歌」
6
一方、その向こうではアルトさんがカリナさんの隣で、
「カリナ、可愛い! すげー可愛い! めちゃくちゃ可愛い! 超可愛い!」
とカリナさんをいっぱい褒めていた。カリナさんを見るアルトさんは自分のことのように嬉しそうだったけど、カリナさんはとっても嫌そうな顔をしていた。
「いやー、こんなに可愛いカリナを見られて、俺は幸せだなあ」
「……あっそ。その幸せを使い果たして、不幸になればいいのにね」
「いいや、俺は不幸にならない! むしろ幸せになった! ナルも可愛いクウちゃんを見られて、幸せだろ?」
アルトさんにそう聞かれて、それまでクウさんを見て動かなかったナルさんがはっとして、慌ててクウさんから目をそらした。
「い、いや、僕は……」
クウさんは悲しそうに笑った。
「この服、わたしには似合ってないですよね。だから、ナルが幸せになれることなんて……」
「そ、そんなことない!」
いつも冷静なナルさんには珍しく、大きな音を立ててイスから立ち上がった。そのナルさんの様子にクウさんはびっくりした顔をしていた。
「ナル?」
珍しく動揺しているナルさんと、びっくりした顔のクウさん。しばらく、二人はお互いの顔を見ていた。
先に話したのはナルさんだった。
「……その、すごく似合っていると思う」
小さな声だったけど、クウさんにはちゃんと聞こえたようで、
「すっごく嬉しいです!」
ぱあっと満面の笑顔になった。今のクウさんの笑顔はみんなを笑顔にする笑顔じゃなくて、幸せそうな笑顔だった。
「……って、わたしが嬉しいってダメですよね。ごめんなさい!」
ぺこりとクウさんが頭を下げる。
「いや、別に謝らなくても……」
「わたしもいつかカリナ姉みたいに素敵に服を着こなして、ナルを幸せに出来るように頑張ります!」
「いや、それは頑張らなくても……」
「でも、わたし、カリナ姉みたいにお洋服を着こなしていませんし……」
「……その、今のままで十分……可愛いから」
ナルさんは困っているみたいけど、カリナさんが可愛くなって嬉しいアルトさんのようにクウさんが可愛くなって嬉しいらしい。
そしてなぜか、コウキさんと同じく顔が真っ赤だった。
コウキさんも、ナルさんも、アルトさんも男性の皆さんは好きな女性が素敵な服を着て、嬉しそうだった。
もし、わたしがクウさんたちみたいに素敵な服を着て可愛くなったら、トラネコさんもコウキさんたちみたいに喜んでくれるかな。
……って、わたしはまた何を考えているんだろう。
トラネコさんとずっと一緒にいられるようになったのに、それ以上のことを……トラネコさんにもっと好きになってもらいたいと最近、思っている。
こんなことを思っているって知られたら、トラネコさんは迷惑かも……ううん、わたしのことを嫌いになるかもしれない。
「レンちゃん、どうかしたんですか?」
顔を上げるとクウさんが心配そうにわたしのことを見ていた。
「何でもないんです。気にしないでください」
笑って答えたけど、クウさんの心配そうな顔は変わらなかった。
「……無理……しないで」
ミコトさんが優しく頭を撫でてくれる。
「レンちゃんが思っていること、わかるわ」
「……え?」
「レンちゃんも可愛い服を着てみたい。正確には可愛い服を着た姿をある人……とあるネコさんに見てもらいたい。でしょ?」
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