11周年記念物語「人魚姫の想い歌」
4
「……人間は自分の都合や利害のために、誰かを平気で傷つける」
リーちゃんは静かに言った。
「傷つけるのは同じ人間だけじゃとどまらず、自分たち以外の生き物や精霊、空や海や大地までにおよび……その果てに世界を滅ぼす存在となる。あたしは人間のそういうところが嫌いだよ」
それは違う、とは否定出来なかった。
わたしも精霊で、リーちゃんとだいたい同じ年月を生きているから、人間の自分勝手で、自己中心的なところをたくさん見てきたし、人間によって滅ぼされた世界もいくつも見た。
中にはおかしの存在を脅かそうとした人間もいて、おかしを守るために戦ったこともある。
そういう人間もいることは悲しいことだけど……コウキくんたちやクウちゃんたち、そしてトラネコくんみたいな人間もいるから、人間のことを嫌いにはなれない。
わたしは人間に好意を持っているほうだけど、リーちゃんはどちらかというと、人間が嫌いなほうである。
元々、精霊としての役目を重視するタイプだから、簡単に信用出来ないっていったほうが正しいか。
前から心を簡単に開かない子だけど、空の海の魔女になってから、心のガードがさらに強化されて、心を閉ざす傾向にある。
でも、コウキくんたちやクウちゃんたちとか、トラネコくんとか……あの子たちと関わるようになって、リーちゃんもちょっとずつだけど変わってきていると思う……たぶん。
精霊としては人間に肩入れしすぎるのはあんまり良くないかもしれないけど、リーちゃんの友だちとしてはコウキくんたちやクウちゃんたちをきっかけに、少しでもリーちゃんが人間を好きになって、もうちょっと精霊の役目以外のことに目を向けて、今を生きることを楽しんでほしいと思う。
「今日のことだって、ワガママなバカネコがレンを傷つけたから、あんなことになったんだ。あの時はそれどころじゃなかったが、罰はあとできっちり受けさせてやる」
…………あ、忘れてた。
今日はいろいろあって、リーちゃんが落ち込んでいるんじゃないかって心配ですっかり忘れていたけど、トラネコくん、可愛く着飾ったレンちゃんに可愛くないって、ひどいことを言ったっけ。
あの内気なレンちゃんがトラネコくんのために勇気を出して、あんなに頑張ってオシャレをしたのに……可愛くなったレンちゃんを他の男の子に見せたくなかったとはいえ、可愛くないと言って傷つけたことは見過ごせないことである。
だけど……
「でも、トラネコくんはレンちゃんのことを助けたじゃない。せめて、ザキ系の呪文を唱えるのはやめてあげたら?」
大事な女の子を傷つけたことは許せないが、トラネコくんがいなかったら、『彼女』に取り込まれたレンちゃんを助けることは出来なかった。
その点は評価してあげてもいいのではと、罰は受けさせるとしても即死刑だけは見逃してもらえるように一応、お願いしてみる。
「そうだねえ……パルプンテ程度にしてやろうかね」
にやりと意地悪そうに笑うリーちゃん。
「あら、それは大変ね」
パルプンテを唱えられて、トラネコくんはどうなることやら。
ま、何かあった時は何かあった時で、女の子を傷つけたことはきっちりお仕置きを受けるべきだと思うし。
リーちゃんと月を眺め、お酒を飲みながら、一応、トラネコくんの命運を祈った。
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