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11周年記念物語「人魚姫の想い歌」
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 「はい、これ」

リーちゃんの前にビンを一本置く。

 「何だい、それ」

 「何って、もちろんお酒」

精霊はお酒を飲まない……なんてことはない。

一応、ご飯も食べられるし、お酒も飲む。

でも、お酒の中には力が宿ったものもあるので、それを子どもの精霊が飲んじゃうと力の制御が出来なくなったり、暴走してしまう恐れがあるから、お酒は大人の精霊しか飲んじゃダメ、ってことになっている。

人間と同じく、精霊もお酒は大人になってから、である。

 「酒? 何で?」

 「それはもちろん、リーちゃんが落ち込んでいるんじゃないかなって」

 「あたしが?」

 「リーちゃん、トラネコくんに言われたこと、気にしているでしょ?」

リーちゃんは黙ってビンを開けて、一緒に持ってきたグラスにお酒をついだ。

 「……あんなバカネコに言われたこと、気にしちゃいないよ」

一気にお酒を飲むリーちゃん。

気にしているくせに……と思いつつ、わたしも自分のグラスにお酒をついだ。

 「精霊って、寿命は長いし、人間より強い力を使うことは出来るけど、司るものを絶対守らないといけないから難儀よねえ」

精霊は司るものを守ることを定められた存在……おかしの精霊であるわたしの場合だと、おかしを汚すもの、おかしの存在を脅かすものから、おかしを守らなければならない。

もし、司るものを汚す存在と化したら、精霊はその瞬間、消滅する。

最悪の場合だと、魔物化してしまうこともあるらしい。

ぶっちゃけて言っちゃえば、精霊は超がつくほどの長寿命だけど、生まれた瞬間から司るものに縛られ、それに背いたら即、死ぬ運命を背負っている。

ある意味、人間より自由がない。

 「それが精霊だ。お前だって、精霊だからわかっているだろ」

 「はいはい。重々よーくわかっていますよ。でも精霊だって、またに休みたい時だってあるし、ストライキを起こしたくなる時もあるし、ムカツク上司に退職願いを叩きつけたいことだってあるのにそれが出来ないって不公平よ」

 「じゃあ、精霊は生涯年中無休で働かないとね。まあ、人間の社会と違って、司るもの以外のことは自由なんだ。のんびりやったらいいさ」

 「ああ、なるほどー。……って生涯年中無休なんて、労働基準法としては違法も違法よ! ブラック会社もいいところよ! それに結局は司るものに縛られるってことは変わらないじゃない!」

 「だから、それが精霊なんだ。精霊として生まれた以上、それは諦めな」

 「う〜、やっぱり不公平よ……」

精霊として生まれたことをほんのちょっとだけ恨みたくなった。

八つ当たりにお酒を多めにグラスについで、ぐいっと飲んだ。

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あきゅろす。
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