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11周年記念物語「人魚姫の想い歌」
sideレン 人魚姫の想い歌
……ここはどこだろう。

ぼんやりする意識の中、考えた。

水の中だ、というのはわかった。

でも、空の海の水とは違う。冷たくて、少し息苦しい。

人魚である自分が水の中にいて、そんなことを感じるのは不思議だった。

ううん、息苦しく感じるのはきっと……わたしも『彼女』と同じ気持ちを抱いているからだ。

 (もう苦しむ必要はないわ。ここで何も考えず……ずっといましょう)

『彼女』がわたしにそう語りかけてくる。

ふと、彼の顔が思い浮かんだ。彼のことを想うと胸が苦しくなる。

 (どうして、彼のことを考えるの?)

どうして? どうして考えるのだろうか。

 (彼のことを考えると苦しいのでしょう? ひどいことを言われて、悲しかったでしょう。だったら、彼のことを忘れたらいいじゃない)

そう、忘れたほうがいいのかもしれない。

だけど……

 「……トラネコさん」

彼の名前を呟く。

 「……ン!」

彼の声が聞こえた。

気のせいかと思った。だけど……

 「レン―――――――!!」

今度は、はっきり聞こえた。

目を開けて、辺りを見回す。

すると、こちらに向かってくる彼……トラネコさんの姿が見えた。

 「トラネコさん……!」

泳ぐのが苦手なのに、必死になって、こっちに来てくれている。

嬉しい。本当に嬉しかった。でも……

 「レン、ボクと一緒にここから出よう」

わたしの前にたどり着くと、トラネコさんはわたしに手を差し出した。

わたしはその手を取ることに迷った。

……わたしはトラネコさんと一緒にいてもいいのだろうか。

わたしはクウさんたちみたいに可愛い服を着ても素敵になることは出来ないし、お姫様みたいなドレスも着てもきっと似合わない。

……人魚のわたしが人間のように可愛くなることは出来ない。

そんな自分はトラネコさんにとって、そばにいたら迷惑になるのではないだろうか。

そう考えたら……『彼女』に忘れたほうがいいと言われた時、そうしたほうがいいかもしれないと思った。

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