11周年記念物語「人魚姫の想い歌」
sideレン 異変
やっぱり人魚のわたしなんかがクウさんたちみたいになれるわけがなかった。
せっかくクウさんたちが考えてくれた服なのに、申し訳なかった。
申し訳なさと、可愛くなれなかった悲しみの気持ちがわたしの中でぐるぐると回る。
店を飛び出して、とにかく走って……
「……っ」
涙が溢れる。泣いちゃダメって思っても、止まらない。
立ち止まって、涙を拭いた。けど、何度拭いても涙は溢れてしまう。
どうしたら、この涙は止まってくれるんだろう。
トラネコさんと一緒にいられるだけで、いいと思った。
なのに勝手なことをして、勝手に泣いてしまった。トラネコさんを困らせてなくて、飛び出してきてしまった。
トラネコさんに見てもらえるだけでいいと思っていたのに……クウさんたちが考えてくれた服がとっても可愛くて、心のどこかでもしかしたらトラネコさんもコウキさんたちみたく喜んでくれるかもしれないと期待した。
けど可愛くないって言われてショックを受けて……勝手なことをしたのは自分なのに、何を勝手に落ち込んでいるんだろう。
まだ涙は止まりそうになく、お店に戻れそうにない。
どうしようかと思った、その時。
『どんなに想っても、報われるはずがない』
そんな声が聞こえた。
『……人魚が誰かを好きになっても、その想いが報われることはないわ』
「……だ、誰?」
わたしの質問に答えるように地面から、木から、空から、水が現れた。
ここは次元の挟間の森の中とはいえ、空でも水が溢れる空の海でもないのに、こんなに溢れるほどの水が現れるはずがない。
それにこの水は何だか……でも今は危険だというほうが強く感じる。
怖い。逃げなきゃ。そう思うのに体が動かない。
『わたしなら、あなたを助けてあげられる。わたしと一緒に行きましょう?』
声も出せなくて、頭を振って拒否する。
すると声は優しく語りかけてきた。
『好きになっても苦しいなら、辛いでしょう? わたしと一緒に来たら、もうそんな苦しい思いをすることがなくなるの』
……本当にそんなことが出来るのかな。
この苦しい思いがなくなったら、トラネコさんをただ想っていられるかもしれない。
手を伸ばして、そっと水に触れてみる。
すると、水がわたしの周りに集まり、そして……
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