11周年記念物語「人魚姫の想い歌」
10
ショーコさんのお店に着くと、何やら騒がしい……いや、楽しそうな声が聞こえた。
このお店にはボクたちだけではなく、いろんな世界の人間や精霊が来る。
ツッコミ担当だけど、みんなにからかわれていることが多いコウキとか、いつもにこにこして、頭の中が花畑みたいなんじゃないかという天然ボケのクウことクウシェイルスとか、いつも遊ぶことしか考えてないコスプレ好きの大地の精霊とか。
他にもやかましい……ではなくて、コウキやクウたちの個性的な仲間たちや、いろんな精霊たちがショーコさんのお店によく来ている。
聞いたことがある声が聞こえるから、たぶんそいつらが来ているのだろう。
そして、先に行ったレンもいるはず。
いつも通りだ。何の問題もない。
……そう、問題は何もないのだ。
「ねえ、トラネコ。お店の中に入らないの?」
「今、身だしなみを確認している」
「君、今ネコじゃないか」
「ネコはきちんと身だしなみを整えるものなんだ」
「じゃあ、身だしなみを整えたら、入ろうよ」
身だしなみを確認したところ、乱れているところはなく、問題ない。
「ねえ、トラネコ。お店の中に入らないの?」
「今、息を整えている」
「君、走ってきてないじゃないか」
「ボクは王子の頃、走ったことがないから、歩くとたまに息が乱れることがあるんだ」
「じゃあ、息が整ったら、入ろうよ」
ゆっくり大きく息を吸って、息を整える。何回か繰り返して、息は整った。
「ねえ、トラネコ……ひょっとして、緊張しているの?」
「き、緊張? な、何を言っている。たかが、貝殻を渡すだけだ。緊張することなんてない」
思わず、声が裏返ってしまった。これは気持ちを落ち着けている時に突然、話しかけられたせいである。
「でもさ、トラネコ……君の正直なしっぽがまっすぐに伸びているよ」
ブータに言われて、見てみると……確かにボクのしっぽはまっすぐ伸びていた。
そういえば、心臓もさっきから鼓動が早くなっているが、これは恐らく、息を大きく吸い過ぎたせいだ。
そうに決まっている。だから、これは緊張ではない。
「それを世の中では緊張しているっていうんだよ」
と、ばっさりとブータに言われた。
「これは緊張じゃない、武者震いだ!」
「それ、緊張している人がよくいう言い訳だし」
「だーかーらー! これは緊張じゃなくて……」
ブータへの説明中、突然、店のドアが開いた。
「もうしつこい、うるさい、飽きた」
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