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 放課後、佳奈の案内で噂の喫茶店へと向かう。

 駅前というから、もっと人通りの多い場所かと思っていたが、大通りから二本ほど裏に入った寂しげな路地にその店はあった。

 新しい店だが、意図的に汚された煉瓦のタイルがレトロな雰囲気を醸し出している。外から中の様子を伺うには、窓が一つあるだけで、そこからはランプの光に照らされたほの暗い店内が見えた。窓際の観葉植物が、やわらかい印象をプラスする。

 入り口にかけられた「開店中」の札を確認してから、佳奈を先頭に扉を開けた。
 扉に付けられた小さなベルが、可愛らしい音を立てた。


「いらっしゃいませ。お好きな席にどうぞ」


 中に入ると、物腰のやわらかそうな男性が迎えてくれた。人懐っこそうな円らな瞳が、眼鏡越しに見えた。白シャツに黒い蝶ネクタイ、黒のパンツ。ワインレッドに近い、渋い色のエプロンが映える。

 二人は窓際の席に座った。
 先程、外からも見えた観葉植物が、陽の光を浴びて生き生きとしている。

 落ち着いて店内を見回すと、古ぼけた蓄音機が一台置いてあった。

 雰囲気は悪くない。真紀は店を見回して思った。

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あきゅろす。
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