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「ところで、何かあったの?」
本に栞を挟んで閉じると、卓哉は向かいの席に座った。ちょっと言いにくそうな顔をしてから、頭を下げる。
「ごめん先輩、今日急にバイト入っちゃって……」
今日の放課後は、二人で映画を観に行く予定になっていた。
お叱りを受ける覚悟で来たのだろう、卓哉は頭を下げたまま謝罪の言葉を述べる。
「そうなんだ。別に大丈夫だよ、また今度行こう?」
「……怒ってない?」
恐る恐る顔を上げる卓哉に笑顔を返す。
「全然」
「本当に?」
「うん」
すると、卓哉は大きなため息をついて背もたれに体を預けた。そんな卓哉を見て、思わず笑みがこぼれる。
「そんなに心配だったの?」
「そりゃそうっすよ。俺先輩に嫌われないように必死なんすから」
「あ、敬語」
「あ」
真紀の指摘に、卓哉は口を押さえた。付き合いはじめて半年以上経つというに、気を抜くと他人行儀になってしまう。呼び方も、いまだに「先輩」が付く。
ちなみにこれは真紀が強要しているわけではない。卓哉自身が敬語をやめようと言い出したのだが、なかなか身につかない。
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