・13
佳奈は笑いながら言っていたけれど、真紀にとっては心臓を掴まれたような衝撃があった。
何かあったのか、と言われると何もなかった。だが、何もなかったのかと言われると、それも違う。
それは、胸の奥にしまいこんだ、苦い苦い痛みだった。
「でもこれで噂の裏付けができたわね。芳賀洋一くん、かぁ……」
それから、佳奈は洋一が厨房から出てくる度に熱視線を送っていたが、真紀は顔を向けることすらできなかった。
せっかく頼んだコーヒーは、苦味だけが残って、味はよく分からなかった。
真紀たちが店を出るときには、他の客も入り店内はかすかな賑わいを見せていた。
佳奈はレジに洋一が立つことを期待していたが、和やかな笑顔を見せる眼鏡の男性を見て大袈裟なため息をついた。
会計を済ませて出ようとすると、男性が声をかけてきた。
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