キセキの秋桜
68
「……。」
(何だったんだろう、今の)
「目が覚めましたか?」
「起きた〜」
「(何で、此処に居る)」
空がゆっくりと目を開けると、知らない様な知っている様な気がした。其れと同時に知った声がして無表情な顔を露骨に嫌そうに顔を歪めた。
其処にいたのは黒子と紫原だった。何故二人が居るのか何てどうでもよく、自分が今し方見た夢の方が気になって仕方がない。
優しい何かただ其れだけが手掛かり。だが自分は眠っていて探すにも恐らく実体がないもの。
空の中に苛つきが溜まったのは言う迄もない。
「空さん体調はどうですか?」
「ぐっすりだったね〜」
「……別に」
俯いたまま、空は黒子と紫原の二人に答えた。そして、此処が並中ではなく帝光中だろうとも思っていた。
また見た何時も見る夢の事を思い出しながら。
──────────
───────
「あ! 空ちゃん! 良かった〜起きたんだね!」
「……。」
「随分眠ってたんだな」
「……。」
「本当良かったッス」
黒子と紫原に体育館に連れて来られると丁度休憩中だったらしく、キセキ達と桃井が駆け寄って来た。今の空にとって此処に居る全員がどうみても敵でしかない。
心配されるいわれも、心配する振りも、空自身には必要もなければ、迷惑で気持ちの悪い行為でしか、今は感じられずにいた。其れでいて、毎日自分に伝わって来るもう一人の自分への想いが更に空を不愉快にさせ苛立たせている。
全くの理解不能としか言い様がなかった。
ただ此処最近見る夢で一つ、思い出せそうで思い出せない事があった。
「(黒髪の男の子とした約束って何だろう……)」
「空ちゃん?」
「(知ってる気がするのに、何で思い出せないんだろう……。気持ち悪い)」
「(もしかして、今機嫌悪いのか?)」
「……帰る」
空はそのままパイプ椅子から立ち上がり鞄を持ち、体育のドアの方へと歩いて行った。変わらず無表情のまま。
「空さん何だか機嫌悪かったですね」
「如何したんだろうね?」
「何時もより不機嫌っぽかったッスね」
そんな会話がなされていたとは、空は知らない。
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