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キセキの秋桜
65


「おいおい、堂々と遅刻かよ」

「アンタ何様のつもり?」

「傷大丈夫ぅ〜?」

「愛ちゃん、こんな人心配しなくていいんだよ?」

「愛ちゃんって本当に優しいね。どっかの誰かさんと違って」




(勝手に気持ちの悪い友情ごっこでもしてろ)

(正に類は友を呼ぶ。屑の周りには、屑しか集まらない)




教室に来たら来たで悪口を言われ、また殴られる。もうすっかり慣れて来ている空は、堅く心を閉ざし無表情だった。

最初の頃の様に泣く事も、やめて! 信じて! や私は悪くない、何もしてない、と言う事もなくなり、すっかりサウンドバック化していた。愛も周りも面白くないと思った。




「ゔ……」

「何だよ、泣き喚かねーのかよ」

「つまんねぇの」

「ゔ、ぁ、っ」




殴られる様子をずっと見ていた周りのクラスメイト達はクスクスと笑っていた。もっとやればいいのにもっと苦しめたらいいのに、と何人かがそう言っているのが聞こえた。

其れをずっと傍らで見ていた綱吉、炎真、京子、クローム(凪)、そしてもう一人──黒川 花≠ヘ、幾ら何でもやり過ぎだと思った。花は此処迄ずっと傍観を決め込んで来たが、空を嘘吐きだと思った事は一度としてなかった。

信じていたから。空の事を。京子を通じて仲良くなった大切な友達を。




(流石に此処迄来ると、ね……。空だって笑った顔がトレードマークだった筈なのにさ、今じゃ全然笑ってないし)




花一人がそう思った所で、状況が何か一つとして変わるわけではない。其れでも花は傍観者で居る事しか出来なかった。

其れとは反対に綱吉は殴られた反動でか、誰かに蹴られた拍子で飛んでしまったからか、鞄を優しく埃を払い拾い上げて空の使っている席迄無言で持って行き、優しく置いた。京子、クローム、炎真、そして花の四人がやろうとした事を綱吉がやってのけた。

見ていた何人かは驚きを隠せなかった。獄寺と山本は特に驚いた。


「何でそんな人を貶めるような卑劣なヤツの鞄何て……!」と。


綱吉の無言のその行動の裏には、実は綱吉もまた不思議な体験をしていたのと、やはり知っている気がする一人の黒髪の男の子の事が大きかったから。そしてもう一つの理由としては、やはり一番空の近く居た綱吉だからこそなのか、双子だからなのかもしれない。

自然と空の気持ちが伝わって来る様な気がした。優しい性格だからこそ、無意識に綱吉に気持ちを訴え続けていたのかもしれない。




(……やっぱり、空は空だな)




「っ、」

「はっ」

「ざまぁみろ」

「あははっ! 可哀想ー」

「滑稽だねぇ〜」




殴られ終わったらしい空を見下して、今度は暴言を吐き出していた。然し次の瞬間、教室に居た全員の背筋が恐ろしく凍った。

誰も言葉が出せなくなる位に。然し綱吉、獄寺、山本の三人だけは何故か其の正体が分かってしまった。

流石の綱吉も獄寺も山本も言葉に詰まってしまう位に、ソレは教室の中を冷やしていた。其れと同時に教室の中に不気味に笑い声がした。




「はは、ははは、あははははは!!」

「「「(殺気(か/なのか)!?)」」」

「はー」

「な、何なのよ!!」

「可哀想なのはお前らの方だろ?」




無表情中の無表情でありながら、不気味に口元だけは弧をえがき、殺気を洩らしながらそう告げた。綱吉達も今迄に感じた事のない殺気に、この時初めて本物の危機感にも似たものを感じた。

流石にこの状況は大変な事態になりかねない、と。




「本当に可哀想な奴らだな」

「「「「……。」」」」

「はははははは、人を貶める気分はどうだ? 楽しいか? クズ共」

「「「「……。」」」」

「所詮クズにはクズの友達しか出来ねぇだろうよ。何せクズしか居ねぇしな」




一歩、また一歩狂気的な笑みを浮かべ威圧感たっぷりに近付いて来る空にその場に居た全員は、人間の本能的に危機感を感じた。訊いた事もない様な声も恐怖心を植え付けるのには打って付けなのには変わりなかった。

ただ一番驚きなのが、無意識でソレをやっていると言う事。恐らく本人も全く意識していないだろう。




「そんなストレス溜まってんなら、いっそ死ねよ」

「て、てめぇが死ねよ!」

「はぁ? 何言ってんの、お前」

「うぐ…っ!?」

「ごちゃごちゃうるせぇな。黙ってろクズが」




射る様に、凍り付けにする様に、冷たい瞳で一人のクラスメイトの男子を睨み付け、制服のネクタイを容赦なく引っ掴み、そのまま当たり前の様に容赦なく投げ飛ばした。当たり前だが悲鳴を上げる女子達にクラスはパニックになる。

然し、次の瞬間にはまた黙り込む。




「うるせぇ、黙れ」




まるで波長が合った様にシーンとする全員と空の様子が少し変わったのは、同時だった。




『此れはまた、凄いな』

『マジで女かよ……』

『凄い力でござったな』

『女子の出す力じゃないでしょ』

『こ、こわ……』

『ヌフフ……凄い方が居たものですね』

『究極、俺は嫌いじゃないぞ!』




そんな何処か聞き覚えのある声がした様な気がしたのと、空の身体が薄く淡く光った事に誰も気が付かなかった。ただ一人を除いて。




「……。」

「(えっ、今のって……)」

「(保健室)」




言うだけ言うと、さっきのは一体何だったのか…もしかして夢だったのか……?と思う程、空はすっかり元に戻っていた。傷の痛みに耐えながら、空はそのまま教室を出て行った。

恐怖心といろんな意味で疑問だけを残して。




「空……ごめんな……」

「「「「(ツナ君(ボス/沢田)……)」」」」




双子の妹を心配する兄と、綱吉と空を心配する四人と七つの意識達が其処にはいた。

先生が来る迄ずっと、クラスには不思議な、けれど恐怖が支配する空気に包まれていた。





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あきゅろす。
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