キセキの秋桜
63
『むぅ…』
『むー』
『な、なかよくしなきゃ!』
『『だって!』』
『喧嘩はダメよ。仲良くね?』
『『……はーい』』
『──くんも空もなかよし!』
三人の小学生と双子の母親の沢田奈々は笑顔だった。ついさっき迄膨れっ面だった二人は、なくなくと言った感じで互いを見た。
『あそぼ?』
『うん!』
『だな!』
『『『あはは!』』』
『なかなおり、したね』
『そうだね!』
『なかなおりー!』
『ふふ』
「……。」
(まただ。何なの、この夢……)
今日も何時も通りの朝。何時も通りの夢。
倒れたあの日から場面は違えど、リピート再生されるかの様に同じ夢を毎日見る様になっていた。決して眠れていないわけではなく、不思議な事にぐっすり眠っている。
其れなのにも関わらず、不思議な位何度も何度も同じ夢を見るのだ。名前も知らない、同い年位の黒髪の男の子と自分と双子の兄が決まって必ず登場する。
指名しているわけでもないのに。
「何なの、本当……」
ボソッと誰かに言うわけでもなく、呟いて空は敷いていた布団を綺麗に畳み、制服に着替えた。よく分からないモヤモヤを抱えたまま。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「うぐ……っ、」
「お前、本当しつけぇんだよ!!」
「本当毎日毎日よく学校に来れるのな」
「(此処迄しなくても。空は本当に何も悪くないんだ……!)」
「アッハハ! 無様ー」
登校早々空は獄寺、山本、愛、そして完全な巻き込まれな綱吉達に物陰迄連れて来られ、何時もと変わらず暴力をふるわれていた。然し、綱吉だけは酷く自分の行動を後悔していた。
よく晴れた──空が愛に嵌められたあの日。綱吉は異常なまでに超直感が働いていた。
嫌な予感がしていたにも関わらず、綱吉は何の行動も起こす事も出来ず空一人が悪者になり、孤立させてしまった。その事を未だに悔いているのは、今この場に居る者達では綱吉たった一人だけ。
幾ら空や愛の居ない所で、獄寺と山本に空は無実だと訴え掛けても、二人は全く聞く耳を持たなかった。その時から綱吉は疑問に思い始めていた。
「自分は本当に獄寺君と山本の事を信じていてもいいのかな……」
「二人の事を友達≠セと思っていてもいいのかな……」
優しい性格の綱吉はそう思いながら、あの日からずっと日々を過ごして来た。妹を直ぐに助けてやれなかったヘタレさと、行動力の無さを、自分自身を、まさか此処迄恨めしく思う日が来るとは思ってもみなかった。
だから綱吉は何時も心の中で、涙目になりながら誠心誠意を込めて謝っていた。でも、何時迄もそんなのじゃダメだ、綱吉はそう思った。
五日前リボーンに言われた事が綱吉の脳裏を過った。
「う、っ、」
「はっ、くたばってな」
「行くのな」
「そうだねぇ〜」
「……。」
獄寺達がその場を立ち去ろうとするのに、綱吉だけは空を見つめたままその場から一歩も動こうとはしなかった。獄寺達は、その場から一歩も動こうとしない綱吉に、声を掛ける。
「十代目?」
「ツナ? 早く行こうぜ?」
「ツナ君?」
「……。」
獄寺と山本は、何時もとは少し様子の違う綱吉に不思議に思い顔を覗き込んだ。然し二人はその行動を酷く後悔する事になった。
「「!」」
(十代目、何でそんな悲しそう顔を……)
(こんな苦しそうな表情のツナ、初めて見た……)
(何してんのよコイツら)
(其れにしても沢田 空、滑稽ね。一生地面に這いつくばってなさい)
獄寺と山本が見たのものは、綱吉の悲しみや苦しんでいる顔だった。見ている方も辛くなる程、綱吉の表情は物語っていた。
其の傍らで愛は、そんな光景を見ていても全く罪悪感と言うもの感じるどころか、心の中で空の事を恐ろしい程に嘲笑っていた。自分自身の手をあまり汚す事もなく。
(愛に逆らうからそうなるのよ)
(バカな女)
愛がそんな事を思っているとも知らずに、獄寺と山本は取り敢えず綱吉を連れて教室へ行く事にした。
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