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キセキの秋桜
56


ガラッ




「ただいま戻りました」

「……。」

「ユニちゃんお帰りなさい」

「空さんもお帰りなさい」




帰って来るなり、炎真とアーデルハイトが出迎える。変わらず無表情で、炎真とアーデルハイトの目を一瞬見ると、何時も通りに少し俯いた。

ローファーを脱いで丁寧に隅の方へ並べると、何も言わずに部屋に戻ろうとした。だが、それはユニの掛けた言葉によってそれは阻まれた。




「夕食は摂らないのですか?」

「……。」

「空さんの分はちゃんと残してあるわ。温め直してくるわね」

「……。」

「空ちゃん手を洗っておいでよ。僕とユニちゃんは居間で待ってるから」




そう笑って、ユニと炎真は居間の方へと言ってしまった。アルコバレーノ達も、お前の部屋に行くぞ、と言った為、最強の赤ん坊達と共に一旦部屋へと戻って行った。

一瞬、何でアンタ達と部屋に行かなきゃいけないんだ。そう思いながら鞄を置きに部屋へと戻った。




─────────
──────




「……いただきます」




一旦部屋に戻り、着替えを済ませて手も洗い居間へ行くと丁度温め直されたオカズから、いい匂いがしていた。何時も通り小声でいただきますと言い、食べ始めた。

その光景をユニ、炎真、アーデルハイトの三人は見ていた。空は特に気にせず、よく噛んで食べ進める。




「……。(モグモグ)」

「空さんは本当に丁寧に食べるわね」

「美味しそうに食べるね」

「本当ですね」

「(あの夢、何なんだろ)」




空がそんな事を考えながら、夕食を食べているとは知らないユニ、炎真、アーデルハイトは、やはり変わらない表情に少し残念そうな表情をした。しかし、ユニは気が付いていた。

ほんの少しではあるものの、空心が変わって来ている事に。




「(いい方向へ、空さんは変わって来ていますね)」

「……ごちそうさまでした」

「お粗末様です」

「あ、僕も手伝うよ」

「……自分でやる」




そう言って空は何時も通り、自分が食べた分の食器を洗い始めた。アーデルハイトも炎真もユニも、その様子を優しく見守る。

少し俯き気味の伏せられた瞳と長い睫毛は、やはり女の子であり、綱吉と双子なのだろうと思った。綺麗というにはまだ幼い顔付きだが、可愛いと言うのなら、分かる気がする。

今は無表情なので、どちらかにしろ綺麗に近いのかもしれないが。




「……。」

「空さん、お風呂に入ってらっしゃい。ユニさんと一緒に」

「安心して。僕達はもう先に入ったから」

「……。」

「行きましょう、空さん」




小さく頷くと、空とユニは居間を出て行った。ユニは一瞬、アーデルハイトと炎真に笑顔を向けていた。

「大丈夫です、私に任せてください」と言われた様な気がした。居間を出て行ったユニの笑顔に、二人は任せて見る事にした。




────────
─────




「……。」

「気持ちいいですか? 空さん」

「(コクン)」

「ふふっ、それはよかったです」

「空さん、私も洗ってもらってもいいですか?」

「(コクンッ)」




並盛旅館のお風呂で、何故か洗い合いをユニとしていた。ユニが言い出して、空が頷いただけなのだが。

如何やら、何処かユニには気を許している様にも感じた。ユニ自身も嬉しく思い、一緒に入っていたアルコバレーノ達も安心と喜びを感じていた。

空自身元が優しい性格だからか、ユニが自分よりも幼く優しいからか、邪険にする事はなかった。そして、ユニは感じ取っていた。

空から感じる、数人の意思≠フようなものを。




(彼らのおかげ、なのでしょうね。空さんがいい方向へ変わりつつあるのも、酷い怪我が治ったのも)




「……。」

「上手いですね、洗うの」

「……。」

「ふふっ」




空の背中を洗うユニ、ユニに背中を洗われている空、空に優しく丁寧に自身の身体と頭を洗われている風。不思議な光景ではあるが、微笑ましいとも取れた。

他のアルコバレーノ達も空に身体と頭を洗われている風を見て、狡いと思ったのか我先にと寄って来る。中には、素直じゃない子もいるが。




「ふふっ。空さん、彼らに気に入られたみたいですね」

「……。」

「空さんには、きっと人を惹き付ける魅力があるんですね」

「……。」




風を洗い終わり泡を流し終わると、次のアルコバレーノの身体と頭を嫌がる素振りを見せず、丁寧に優しく洗い始めた。ユニも空の身体についた泡を流した。

ユニは既に自身の身体を洗い終わっている為、そのまま風を抱えて、湯船の方へ歩いて行った。




「空さん、大人気ですね」

「そうですね」

「私には、少し笑っている様にも見えます」

「そうですね。ですが、空さん自身はまだ意識してはいないのでしょう」




ユニと風がそんな会話をしているとは知らない空とアルコバレーノ達を見つめる風とユニ。何やら騒いでいるアルコバレーノを見つめる空の瞳には、さっき迄の冷たさが薄れている様に見えた。




「ふふっ。空さん困ってますね」

「彼らは、そんなつもりはないと思いますよ」

「彼ららしいです」




二人がそんな話をしていると、いつの間にか全員洗い終わったらしいアルコバレーノ達と空が湯船に浸かってきた。




「……ふぅ……」

「お疲れ様です」

「……。」

「私は先に出てますね」

「はい」




そう言って、風は先に出て行った。他のアルコバレーノ達は、特に気にせず浸かっている。

空も少し風を見ただけで、特に気にはしなかった。




「私もそろそろ出ますね」

「(コクン)」




ユニも少し上気した頬をしながら、笑って出て行った。




「(何か、忘れている様な気がする……)」




そんな事を思いながら、空も暫く湯船に浸かってから、アルコバレーノ達と共に出たのだった。




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