キセキの秋桜
55
とあるコンビニの前。身長が中学生にしては異常に高いキセキの世代+桃井、そして違う中学の制服を着た空と言う何とも不思議な光景だった。
キセキの世代達にとっては、普通の日常だったりする。然し、空にとってはあまりこう言う事はないせいか、ボンヤリしていた。
そんな空の目の前に、一つのアイスが差し出された。
「?」
「どうぞ、よかったら」
「……。」
「一つで十分なので」
「……有り難う」
「いえ」
アイスを差し出したのは変わらず無表情な黒子だった。二人で分けるタイプのアイスで、黒子は一つで十分だと言っていた。
なら何故それを選んだんだ、空はそう思ったが、渋々アイスを受け取り小さな声でお礼を言うと、黒子に聞こえていたのか返事が返って来る。然しそれと同時に、ある事を思い出していた。
(やな事思い出した……)
(もうアイツらと過ごした事は所詮過去だし)
『アイス食べたいね』
『暑いよね』
『なら、コンビニよろうぜ!』
『俺が今言おうとした事を!』
『ハハッ、いいじゃねぇか。怒るなよ、獄寺』
『うるせぇ、この野球馬鹿!』
『二人共……』
『喧嘩はダメだよ、仲良くしなきゃ……』
(あんなの、まやかしだった。偽りだったんだ)
(今更あんな事思い出したって遅いんだ)
アイスを食べながら、思い出したくない事を思い出したのか、眉間に皺が寄っていた。その傍で同じくアイスを食べていた黒子は、顔を覗き込んだ。
「空さん、如何かしたんですか? 凄いを顔してましたけど」
「……別に」
「そうですか? 無理はしないでくださいね?」
「……。」
返事は返さなかった。けれど、黒子は何処か空が寂しそうな目をしている様に見えた。
一瞬だった為、本当にそうだったのかは分からない。でも、黒子は空はまだ誰かを信じているのではないかと思った。
信じたいけど、信じられない。何処かそんな気持ちで揺らいでいるのではないかと。
「行くぞ」
「はい。行きましょうか空さん」
「……。」
アイスの食べカスをコンビニの備え付けのゴミ箱へ捨てると、黒子と空は歩き出した。
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─────
「また、明日部活で」
「またねー!」
「またな」
「……。」
順に各々の家のある方角へと、別れていた。今は残った黒子、青峰、桃井、空の四人が分かれ道で別れた。
「(今日は災難だった)」
黒子、青峰、桃井と別れて並盛旅館のある方角へ歩きながら、一人考えていた。変な人達と会ってしまったと。
然し、バスケをしている時の真剣な表情をふと思い出すと、直ぐにその思考を打ち消す様に首を振った。その時だった。
「遅い帰宅ですね」
「……誰」
「誰とは酷いね」
「……。」
一人歩きながら考え事をしていたせいか、油断してしまっていた。然し、空はその声に覚えがあった。
前に一度会った事があった。
「………アルコバレーノ……何で居るの」
「リボーンに呼ばれたんだぜ、コラ」
「リボーンの奴、俺様は忙しいってのに」
「全くだ。私も研究で忙しいと言うのに」
「(……だったら、全員帰ればいいだろ)」
「リボーンおじさまの言う空さんですね?」
「……そうだけど」
全アルコバレーノに声に掛けられ、少し不機嫌になる空の皆にまた聞き覚えのある声がした。優しく、温かみのある声だった。
「初めまして……と、言う訳ではありませんが、初めまして。私はユニと申します」
「……沢田 空」
「宜しくお願いします。空さん」
「……宜しく」
「取り敢えず並盛旅館に帰りましょう」
「……。」
何故こんな場所にアルコバレーノが居るのかは、分からないが、空は一旦気にしない事にして、並盛旅館迄アルコバレーノ数人とユニと言う少女と共に何とも言えないまま並盛旅館迄歩いた。
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