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キセキの秋桜
54


「大丈夫ッスかね……空ちゃん」

「大丈夫ですよ。たっぷり休んだと思いますし」




部活が終わり、保健室へと向かっているキセキの世代達。恐らくまだ眠っているであろう少女の元へ。




『なぁなぁ、さわだくん』

『な、なぁに?』

『んな、けーかいすんなよ……』

『だって……きみもいたいことするんでしょ?空みたいに助けてくれないんでしょ?』

『……空?』

『ぼくのふたごのいもーと』

『へぇー! ふたごなんてめっずらしーな』





(何、これ。知らない……私、こんな会話知らない)




『オレ、さわだくんとおんなじクラスなんだぜ』

『えっ? そうなの?』

『そうそう』

『……、あ、転校してきた』

『思いだした?』

『うん! ────くんだよね』

『そうそう!』





(何で、今更こんな夢)

(別にどうでもいいけど。確か、初めてクラスが別れた時だ)




「ん」




夢かはたまた空が知らない事実を見せているのか、夢にも似たモノを見ていた。それと同時に、黄瀬達が入って来た。




「先生、居ませんね……」

「タイミング読んでるんスかね?」

「会議で居ないだけだろう」




そんな会話をしていると、一ヶ所だけカーテンで仕切られたベッドから、寝返りを打ったのか、スプリングの軋む音がした。空が起きたのだろう。




「空さん?」

「……。」

「起きたッスか?」

「?」

「覚えていないのか?」

「……何が?」




黒子と黄瀬が声をかけると、不機嫌そうな表情を向ける空。然し、空自身も如何やら何時の間にか保健室に居た事に小首を傾げていた。

見兼ねた緑間が訊いてみるも、空は覚えていないようだった。そして、空はもう一つ疑問に思っていた。




(身体が軽い。それに多分痣治ってる……?何で?)

(私、如何やって保健室迄来たの?)




「如何やら、顔色はよくなったみたいだな」

「……触るな」




珍しく優しい表情をしている赤司が空に触れようとした時、何時もと同じ様に勢いよく赤司の手を弾き飛ばした。赤司の手を弾き飛ばした本人も、赤司達も驚いた表情をしていた。

空に至っては何時も以上の勢いに、赤司(達)に至っては思っていた以上の勢いと、力加減に驚いた。恐らく何時もは痛みで、そんなに勢いがついていなかっただけなのだろう。

だが今は、何時も通りに手を弾いたつもりが、何時も以上に勢いをつけてしまっていたらしい。手を弾かれた赤司の手と、弾き飛ばした空の手もほんのりと赤くなっていた。




「怪我が治ったのか?」

「……知らない」

「二人の手赤くなってる、冷やそう?」

「僕はいい。沢田の方の手を冷やしてやれ」

「いらない。自分でやる」

「もう! きりがないから、二人の手を冷やすよ?」

「フッ。仕方ないな桃井に従おう」

「いらない」




(((((赤司(赤ちん/君/っち)が笑った……だと!?)))))

(珍しい……赤司君が笑う何て)




桃井の一言で結局二人は手を冷やす事になった。然し、やはり空だけは頑なに拒絶を示す。

それでも、こう言い出した桃井には勝てないのだが。




「はい、赤司君」

「有り難う、桃井」

「いえいえ。はい、空ちゃん」

「いらない」

「もう! ダメだよ!」

「……。」




結局、空は桃井のされるがままで、ボンヤリと布団を見ていた。




「つか、早く帰ろうぜ。腹減った」

「青峰君、空気読んでください」

「だからお前はダメなのだよ」

「青峰っちって本当に野生児ッスね」

「峰ちん我慢しなよ〜」

「お前ら……」




キセキの世代がそんな話をしていると、空がボソリと呟いた。




「……約束って、何だろ……」

「約束?」

「空ちゃん、誰かと何か約束してるの?」

「……別に」




(夢での話だし。でも何でだろう、モヤモヤする)

(何だろう……夢の中の黒髪の男の子の事知ってる気がする)

(何だろう……この気持ち……)




空がそんな事を考えているとは知らず、赤司はこう告げた。




「そろそろ帰ろうか」

「そうだね。もう遅いし」

「……。」




そう告げた赤司は、エナメルバックを肩に掛けた。桃井もスクールバックを肩に掛けた。

他のメンバーもその言葉に頷き、揃ってエナメルバックを肩に掛ける。空だけはベッドから一切動こうとはしなかった。




「如何したの? 帰ろう?」

「……別に」




桃井にそう言われ空も自身のスクールバックを肩に掛け、赤司達の後ろについて行ったのだった。




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