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キセキの秋桜
53


─保健室─




「先生居ないみたいですね」

「……。」




体育館からそんなに時間が掛からない内に保健室へ来ると、黄瀬は抱えて(お姫様抱っこで)いた空をベッドへ寝かせた。空も既に意識を失っていたらしく、ベッドへ寝かせられるのと同時に静かに寝息を立て始めた。

黄瀬も安心したのか、珍しく微笑んでいた。




「何ニヤついてんだ、黄瀬」

「に、ニヤついてないッスよ……」

「青峰君ニヤついていると言うのは語弊です。微笑んでいると言うのが正しいと思います」

「黒子っち……」




黒子が(黄瀬を庇ったのかは分からないが)軽くフォローをすると、黄瀬は嬉しそうな表情をした。黒子は抱き付こうとする黄瀬を上手く躱(かわ)し、小さく寝息を立てる空を見つめた。

それと同時に、さっきの言葉を思い出していた。




『……信じたって、頼ったって、直ぐ裏切るクセに』




(友人やクラスメイト、綱吉君や炎真君達を頼って、信じた。沢山沢山、何度も何度も。それでも、結局は何度も、何度も裏切られて来たと言う意味何でしょうか?)




黒子は眠る空を見ていたが、赤司の一声で黒子達は一旦体育館へと戻る事にした。空の身体が淡く、虹色に輝いていた事に気付かなかった。




──────────
───────




『お兄ちゃんをイジメるな!!』

『何だよ……』

『女にまもられるとかダッセェー』

『ふぇ……』

『イジメてるほうがダサいよ。バッカみたい』




典型的なイジメっ子と泣くイジメられっ子。そして勇敢にも立ち向かう一人の少女。

小学三年生位の生徒が校舎近くで、一人の少年に嫌がらせ(ほぼイジメ)をしていた。

それは何時も通りの光景。然し、イジメられっ子と同じ顔を少女が、少年を勇敢にも男子二人を睨み付けていた。

少年も少女の顔を見るなりとても安心した様な表情をしていた。




『つまんね』

『いこーぜ』




そう言って、二人の男子生徒達はつまらなそうにその場を去って行った。




『お兄ちゃんだいじょーぶ?』

『うん、だいじょーぶ……』

『お兄ちゃん──くんといっしょじゃないの?』

『先に行っててって……』

『そっかぁ』




少女は兄の言う事に笑顔で頷いた。嘘を吐いている様には見えなかったから。

兄のランドセルとランドセルの中身を拾いながら、少年と少女は、ある一人の転校生の少年を待つ事にした。然し、それは直ぐに叶う事になった。




『ツっくーんまたせてごめ……。なんだよ……コレ』

『あ、──くん!』

『──くん! お兄ちゃんがまたイジメられてたの。だから、私が助けたの!』




ランドセルの中身を集めていると、元気で明るく、わんぱく坊主と言う言葉がピッタリな一人の少年が現れた。少年と少女達はとても仲が良く、よく一緒に帰ったり遊んだりする位、三人は仲が良かった。




『そうだったのか……ごめんな……ツっくん』

『ううん。──くん悪くないよ?』

『そうだよ。──くん悪くない!』

『! そっか!』

『『うん!』』




中身を全て拾い終わり、三人はまだ履き替えていない為、改めて上履きから靴に履き替えに靴箱迄三人仲良く笑顔で歩いて行った。




『ねぇねぇ、──くん』

『なぁーに?』

『今日、私達のおうちで遊ぼう?』

『遊ぼう!』

『いいの?』

『『うん、いいよ!』』

『いいぜ! オレも今日はよてーないから』

『『やったぁ!』』




学校の校門をくぐり抜け、三人は楽しそうに話ながら、遊ぶ約束をして、三人は子供達は、各々の家の方へと歩いて行った。




──────────
──────




場面が変わる




『今日で小学校卒業だね』

『そうだね』

『何か変な感じだな』

『四月から中学生だもんね』

『実感ないな……』

『そりゃ、ツっくんと空ちゃんは中学同じだもんな』




急に場面が変わり、幼かった三人の少年と少女は、少し成長した姿へと変わっていた。小学校六年生の卒業式。

何時もと違う、キッチリとした格好で三人は、一本の桜の木の前に居た。一枚、一枚そよ風に乗る様に散って行く桜の花弁を見ながら、少女と少年達はしんみりしていた。

そして唐突に転校生の少年がこんな事を言い出した。




『なぁ、』

『ん?』

『どうしたの?』

『もしさ、』

『うん』

『うん』




転校生の少年が二人の目を真っ直ぐ見ながら、躊躇いがちに言葉を紡ぐ。少年と少女は、少年の言葉に耳を研ぎ澄ます。




『また会えたらか、この桜の木の事を覚えてたらさ……』




『─────!』




『!』

『!』




少年が言葉を紡ぐのと同時に強い風が吹いた。然し、少年と少女の耳と心には、少年の言葉はちゃんと届いていた。

少年は人懐っこい笑顔を二人に向けていた。勿論二人の答えは───。




『うん!』

『そんなの、いいに決まってるよ!』

『じゃあ、約束な!』

『『約束!』』





「……。」




温かい虹色の光(?)に包み込まれている空は、部活が終わった赤司達が来る迄、穏やかな表情で眠りに就いていた。




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あきゅろす。
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