キセキの秋桜
52
「大丈夫か?」
「……何時もと変わらないけど」
「それにしては、顔色がさっきよりも悪くなってないか?」
「……大丈夫」
明らかに可笑しいのは明確な筈なのに空は大丈夫、だと言い張る。全員は赤司の言葉に黒子は容赦なく(とはいっても優しく)空の顔を上げた。
全員は驚いた。明らかに顔色は良くなかった。
然し、当の本人は大丈夫だと言い張る。何故此処迄して、無理をするのか……キセキの世代には分からない。
「……離せ」
「それは出来ません。如何して無理するんですか?」
「関係ない」
「此処迄して無理する必要があるのか?」
「……煩い」
やはり冷めた瞳は変わらず、睨み付けている。然し、依然黒子に包み込まれている手を振り払おうとはしなかった。
その時点で可笑しいと気が付いた。振り払おうとしないのは可笑しい、と。
「沢田、僕の手を握ってみろ」
「……。」
赤司はふと手持ちぶさたな空の手を取って握ってみろと言った。空の手を握っている赤司は少し冷たいその手が少しだけ、何故だか寂しく感じた。
空の顔を優しく包み込んでいる黒子も顔は熱くはないが、少し汗ばんでいた。恐らく既に辛いを通り越しているだろう事は分かった。
空も既に考える事自体が億劫にも関わらず多分無意識だろう、自分の手よりも温かい赤司の手を軽く握った。赤司は手を握られた感覚はあった。
だが、全く力が入っていなかった。空もあくまで軽くしか握っていない為、分からないが、やはり空の身体は悲鳴を上げているようだった。
「何故此処迄無理をしたんだ……」
「……煩い。関係ない、放っておいて」
「関係ない事ないです」
「所詮赤の他人でしょ」
そう空が言うのと、同時に座っていたパイプ椅子から数メートル吹き飛んだ。正確には、珍しく青峰が空を力いっぱい殴り飛ばしたのだ。
流石の本人も驚いていた。当たり前だ、初めて異性を殴り飛ばしたのだから。
そして、赤司と黒子、他のキセキの世代達も驚いていた。そして、直ぐに赤司の地を這う様な声がした。
「大輝、お前は無抵抗な人間や女性を吹き飛ばして楽しいか」
「イヤ、身体が勝手に動いちまったんだよ!」
「言い訳はいい。沢田に何かあったら如何するつもりだ」
「イヤ、だから……」
「沢田の身体は、今力が入らない状態だ。恐らく今起き上がる力は彼女にはないだろう」
「「「「「えっ……?」」」」」
「大輝、明日は覚悟しておけ」
「……ハイ」
とんでもない事をキセキの世代達は、吹き飛んだ空を見る。確かに普段ならば直ぐに起き上がって、睨み付けてくる筈なのに今日はそれがなかった。
幸い息はしている。そして、本人も起き上がりたくても起き上がれなくて、何度も同じ事を繰り返していた。
流石にその光景を自分達の目で見てしまっては、何も言えなくなってしまった。然し直ぐに黄瀬が動いた。
「っ、」
「空ちゃん、無理は良くないッス!」
「……放っておいて」
「いい加減誰かを頼れよ!! 信じろよ!!」
滅多にキレない黄瀬がキレても、空は頼ろうとはしなかった。然し次の言葉で、黄瀬は何も言えなくなってしまう。
「……頼ったって、信じたって、直ぐ裏切るクセに」
「!」
「……もう、誰も信じない。頼らない」
何も言えなくなってしまった黄瀬は、俯く事しか出来なかった。黄瀬自身にも似た様な部分がある為、空の言っている事は分かる。
でも、それではダメだと気が付いたからこそ、時には人に頼る事も大切だと言う事は、黄瀬自身が分かっていた事だった。だからこそ、黄瀬は真っ先に空を起き上がらそうと動いた。
「空ちゃんが俺達を頼ってくれなくても、俺達は勝手にする」
「……離して」
「嫌ッス」
「……。」
「黄瀬君、珍しくナイスです」
「珍しくって何スか!?」
「取り敢えず保健室に運ぶのだよ」
緑間の一声で黄瀬も一同も頷き、空を保健室迄運ぶ事になった。
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