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キセキの秋桜
51


「(何で、こうなったんだ)」




結局あの後、空は青峰に担がれて帝光中の体育館迄軽く強制連行されて来ていた。キセキの世代達も、随分嬉しそうに笑っていた。

だが何時の間に出したのか、パイプ椅子に座る空の機嫌は頗る悪かった。連れて来られた事に怒っているのか、帰り際に雲雀に会ってしまった事に怒っているのか、兎に角人相が最早般若だった。

然しそんな中、一人だけ勇者が居た。




「空ちゃん」

「……何」

「如何?ウチのバスケ部。凄いでしょ!」

「……。」




それは桃井だった。マネージャーの仕事をこなしながら、時より空の様子を見ていた。

案の定空は来てからずっと、少し俯き気味で、前はあまり見ていなかった。ただ、桃井には何処か寂しげな表情をしている様にも見えた。

だから、桃井は空に声を掛けたのだが……あまり返事が返って来る事はなかったけれど。それでも、空は何時の間にか気だる気に前を見つめていた。




「皆ね、何時も頑張ってるんだよ」

「……。」

「特にミドリン何て、何時も居残り練習してるんだよ」

「……。」

「あ、皆そろそろ休憩時間だから私行くね」

「……。」




特に会話と言う会話はしていないが、楽しそうな桃井にそんなにマネージャーと言う仕事は楽しいのか……そんな小さな疑問が空の中に生まれていた。誰かに問う訳ではないが。

変わらず冷たい目を体育館の中に居る全員に向けていると、汗だくのキセキの世代達がタオルとドリンクボトル片手に空の元へとやって来た。桃井は生憎、マネージャーの仕事が忙しい為、その輪の中には居ないが。




「空さん、怪我……大丈夫ですか?」

「空ちゃんまた怪我酷くなってるじゃないッスか!?」

「……別に」

「だが、怪我は放置していていはダメなのだよ」

「顔は大丈夫みたいだね〜」




集まって来るなり、自分の怪我の心配をし出すキセキの世代を鬱陶しいと感じつつも今の空には珍しく、強く言い返す気力も力強く振り払う気力もなかった。朝からクラスメイト達に殴られ、蹴られ、傷の上から更に雲雀に殴られた場所がズキズキ痛み、正直気を失っていたい位、今の空には放置しておいて欲しかった。

だからこそ、今此処には居たくなかった。余計なお世話だと。

疲れも自分の中に溜まりに溜まっていく何かは、消える所か増えていく一方で、今目の前に居る彼らの言葉もまるで水の中に居るかのようで、ぐぐもって聞こえている位には、空に与えているダメージは着実に本人を蝕んでいた。寝たいと、思っているのとは違う。

「永眠」に近いのかもしれない。空は考える事も億劫になっていた。




「? 空さん?」

「如何した黒子」

「何だか空さんの様子が可笑しい気がしまして」

「確かに、何時もと様子が違うな……」




黒子はふと気が付いた。空が様子が少し可笑しい事に。

あまり返事は返してはくれなくとも、何かしらのリアクションはしていた。それなのに今日はそれが極端に少ないのだ。

赤司も黒子同様、様子が可笑しい事に気付き、空の前に膝を付いた。それに気付いたのか、気付いていないのか、空は僅かに顔を動かし、視線だけを赤司に向けた。




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