キセキの秋桜
48
空が優しい声の正体に気付く。背の高い青年と、自分の双子の兄と同じ位の身長の少年が自分を嬉しそうな表情で見ている自分がよく知る人物だった。
「久しぶりだな、ソラ」
「お久しぶりです、ソラ殿」
「ディーノさんにバジル君」
そこに居たのは、優しい兄貴分でキャバッローネのボスで部下が居ないと極度のドジっ子になるディーノと、自分と同い年でありながら父親と同じ組織に属し、修行も手伝ってくれた心優しき少年、バジルの二人が居た。空はイタリアに居る筈の二人が何故日本に居るのか、疑問に思った。
彼らは何かと忙しく、滅多に日本に来る事がないからだ。雲雀も同じ事を思ったのか、眉間にシワが何時も以上に寄る。
「……何で居るの」
「ソラに会いに来たんだ」
「元気そうでよかったです」
(リボーンの言ってた通り、ってか)
(ソラ殿、本当に冷たい瞳を……)
ディーノとバジルの二人は、言動と瞳の冷たさと雰囲気を見て感じ取り、実感した。リボーンの言ってた通りに、一人の少女は心を閉ざし冷たい人間に変わってしまっていた。
瞳を合わせれば拒絶と、自分達を明らかに敵か味方か、信用出来るか信用出来ないか吟味しているような気がしている事は見て取れた。今の空にはその二つの事が今一番大切で、最優先事項だと直ぐに分かった。
そこ迄目の前に居る少女は追い詰められているのかと、ディーノとバジルは思い悲しくなった。前のように温かい笑顔が空からは一切感じられなかったからだ。
「ツナは元気か?」
「……元気なんじゃない?」
「沢田殿とは話されていないのですか?」
「話す事何てない」
無表情で言う空に表情を歪ませる二人を余所に、当の本人は違う場所を見ていた。正確には早くこの空間から出て、教室に戻りたかった。
だが、空は心は閉ざしてはいるし、誰一人として信じるつもりはないが、お客様を放っておく程冷たくもなかった。ディーノもバジルもそれを見て「やはり本心は優しい子(人)だ」そう思った。
「………誰の差し金かは知りませんけど、早く帰って仕事した方がいいですよ」
「まぁ、そう何だがな」
「ですが、拙者達はまだ帰る事は出来ません」
「……そう。勝手にすれば。私には関係無い」
そう言って、空は「失礼しました。態々面倒くさい事をしてくれて有り難う御座いました」冷たく何の感情も感じさせない程の無表情で、そう言い捨てて、応接室を後にした。応接室に取り残されたディーノとバジルと草壁と雲雀は、空が丁寧に閉めて出て行ったドアを見つめていた。
ディーノとバジルと草壁は心配そうで、悲しげな表情を、雲雀は怒りを表情に滲ませていた。そして、ふとディーノは気が付いた事があった。
「恭弥、コレはお前が口癖の様に言って来た風紀が乱れる何じゃないのか?」
「風紀、とは?」
「ディーノさんの、言う通り何ですが……」
「「?」」
気になるからディーノは雲雀に訊いたのだが、雲雀は無言で何も答えない。その代わりに草壁が応えるが、歯切れが悪い。
何かあるのか? ディーノは瞬時にそう思った。そして、とんでもない返答が返って来た。
「今来たでしょ元凶=v
「「!」」
「委員長……」
ディーノもバジルも開いた口が塞がらなかった。当然だ。
雲雀が言った事は、まるで空が風紀を乱している元凶とでも言いたい風だったからだ。然し、ディーノもバジルも知っていた。
「ソラはそんな人間ではないし、そんなことをする筈がない」と。当たり前だが、ディーノは雲雀もその事をよく分かっていると勝手に思っていたから、少なからずショックだった。
とはいえ、雲雀は人とあまり関わりを持つ人間ではないと言う事も良く分かっている為、仕方ない……そう思う事にした。
「恭弥、お前には悪いが……俺はソラがそんな事をする様な奴には思えねぇ」
「それは拙者も同じです」
「ふぅん、そう。でも、僕にはそんな事関係無いよ」
「そうか。じゃあ俺達はもう行く事にするぜ」
「失礼しました」
「お気を付けて」
ディーノは一言雲雀にそう言って、応接室を後にした。バジルも丁寧に頭を下げ、ディーノの後に続いた。
雲雀と草壁はその場に居たが、二人は風紀委員の仕事に戻った。
雲雀も草壁も知らなかった。ディーノとバジルが綱吉の家に向かっている事も、空の身に起こっている事の真実を知る事になる事も。
そして、リングの意志達が動き出している事も。
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