キセキの秋桜
42
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「そう、空さんは出掛けるのね」
「そうなんだ」
「分かったわ」
あの後、結局炎真と一緒に帰って来た空は、着替えて直ぐに出て行った。アーデルハイトも帰って来ていたのは知っていたが、出掛けていたのは知らなかった。
炎真から事情を訊いて初めてアーデルハイトが納得したのは、言うまでもなかった。
「空さん、また笑ってくれるといいわね」
「うん、ツナ君も同じ事言ってたよ」
アーデルハイトと炎真の会話を訊いていた数人のシモンファミリー達も、静かに頷いていた。
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「あ、空ちゃん!」
「……こっち」
「はひ! 空ちゃんも呼んでたんですか!?」
「呼んじゃダメだったの? ハルちゃん?」
「……私の事お兄ちゃんか誰かに訊いたんでしょ。だから、嫌な顔をしたんじゃないの」
ゆっくり歩く空の姿を見付けた京子とクロームは、嬉しそうに手を振る。反対にハルはあからさまに嫌な顔をした。
空はハルの反応を見るなり、学校での事を無表情で言い出した。その事を訊いたハルは、図星だったらしく何も言わなくなった。
そして、何故かその場に居る桃井を見るなり、少しムッとした気がした。
「さつきちゃん、此処がナミモリーヌだよ」
「此処のケーキ、凄くデリシャス何です!」
「……本当に美味しいの」
「……。」
皆が楽しそうにしているのを見て、空はいらない事を言わないように黙っていようと決めて、ナミモリーヌの中へ入って行った。
「わぁ〜本当に美味しそう!」
「美味しいんだよ!」
「デリシャスです!」
「……うん」
「……。」
お店に入るなり京子達は、楽しそうにケーキを選び始めた。ただ一人空だけは、少し離れた所で見ている。
特に意味はないがなんとなく慣れているせいか、つまらなそうでもなく、楽しそうでもない表情で、後ろの方に居た。
「空ちゃんは何がいい? 私が選んであげるから」
「……タルト」
「タルトだってー」
「分かった!」
桃井に訊かれ適当にケーキの名を言うと、桃井は京子達に伝えた。桃井は楽しそうにしているのを見ている空は、眉間に一瞬皺を寄せた。
今の空には、関係のない事だったが。
「有り難う御座いました」
ナミモリーヌを出て、ケーキを持ち誰の家に行くかを話し合っていた。
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─笹川家in京子の部屋─
「京子ちゃんの部屋綺麗だねぇ」
「はひ! 何時も綺麗です!」
「綺麗……」
「……。」
クローム達は笹川家に着くなり、京子に部屋の場所を教えてもらい、京子の部屋で各々の感想を述べている。部屋の主は、飲み物等を取りにリビングへ行っている。
「お待たせ」
京子の部屋を一回り見終わったのと同時に京子がケーキと飲み物を持って戻って来た。
「京子ちゃんの部屋って綺麗で、可愛い部屋だよね」
「そんな事ないよ」
「いえ、何時も綺麗です!」
「……うん」
「……。」
ケーキと飲み物を配り終わると、ケーキを食べながら、空以外の四人でガールズトークが始まる。空はただ話を訊きながら、黙々とケーキを食べている。
「さつきちゃんは帝光中なんだよね?」
「うん。そうだよ」
「如何して帝光中に?」
「うーん。如何して、か。幼馴染が放っておけないから、かな?」
「「幼馴染?」」
「……。」
「……どんな人?」
「うーん、バスケバカ?」
「「「バスケバカ?」」」
「(あの時、何人か居た人達の事かな?)」
ふと一人思い出した空はケーキも食べ終わり、紅茶を飲んでいた。
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