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キセキの秋桜
23.君はまるでははこぐさ(黄瀬side)


俺は花とか花言葉には全く詳しくないッスけど、一月に咲く花で「ははこぐさ」という花があるらしい。
この花の花言葉が「温かい気持ち」というらしいッス。

温かい気持ち……黒子っちにぶつかってきた時に見たあの子の中にある何かを感じた。雰囲気が普通じゃなくても、怪我をしていても、雨に打たれていても、俺はあの子に温かい何かがあるんじゃないかと思う。

きっと、心が優しいくて心が綺麗な子なんだろうな……って勝手に思ってみたり。まぁ、実際接してみないと、何ともいえないッスけど……。

この日も部活が終わって、帰ろうとした時に凄い雨が降っていて、ついてないと思い止むのを待っていようと思った。他のメンバーも雨宿りを強(し)いられた状態で、帰りたくても帰れない。

それなのに、傘を差して帰ろうする人が一人。誰か分かってるし該当する人物が一人しか居ないッスから。

黒子っちだ。俺は、内心ズルイと思ったし流石! とも思った。

こんな所で性格が出るとは流石の俺も思わなかったけど。メンバー達もやいやい言ってる中、俺は素早く黒子っちの差す傘の中に入ってみる。




「黒子っち〜」

「……何ですか」

「傘に入れてもらおうと思って」




ニコリと笑って言ってみると、明らかに嫌そうな顔をする黒子っち。でも諦めずにニコリをキープし続けた(?)ら、スクールバックをあさり俺にもう一本の折り畳み傘を出した。

渡してきた時の言葉には、少なからずショックだったッスけど……。他のメンバー達からは、かなりブーイングを受けたけど、それはあまり気にしない。

黒子っちが歩き始めたのに続く様に俺は借りた傘を差して黒子っちの隣を歩く。




(黒子っちも結構優しいんスよね。あの時のあの子も黒子っちみたいな優しさとかあるんスかね?)




考え事しながら歩いているとふと黒子っちが立ち止まった。何かと思い黒子っちの目線の先を見た。




「この前の……」

「何してんスかね?」




あの子が居た。名前も知らない、話した事もない、何処に住んでるとかも知らない、あからさまに赤の他人な子を見ただけなのに放っておけないと思った。

それから暫く雨の中黒子っちと一緒にあの子を探した。胸が変な感じでソワソワするというか、嫌な感じがする。




──早く見つけなきゃ!




誰かにそう言われている気がして、自分でも変な気分(変な意味ではなく純粋に)だ。周りを見回しながら歩く俺達は、見て分かる位怪しい人達に見えている筈。

それでも、思わずキョロキョロしてまう。




(居ないッスね。歩くスピードが早くて、もう遠くに行っちゃったとか?)




そんな筈ない。俺は如何してか妙に自信があった。

自分自身でも何故かと訊かれれば、上手くは言えない。けど、何処か根拠の無い自信はある。




(うーん……)




それから何分歩いたのか分からなくなった位の時、あの子を見付けた。ゆっくり歩いては立ち止まるを繰り返す。

制服も髪もスクールバックも雨に打たれ続けたのか、びしょ濡れで水滴が滴っていた。後ろ姿を見ただけでも分かる身体のラインと痛々しい傷。

あの子が立ち止まったのをいい事に俺はあの子に傘を差しニコリと笑うと声を掛け、俺は雨に打たれる。あの子は何も言わず、静かに俺達の方へ振り返り傘いらない、と一言だけ言うとジッと光を失った瞳で見て来る。

俺も黒子っちも一応ながら雨の降る中で、あの子と再会(?)したんスから! けど、やっぱり実際見て見ると童顔で身長も低くて、オマケにびしょ濡れというシチュエーションに俺は不覚にも可愛いと思った。

暫く見つめられていた俺達は、名前を聞こうと思い口を開いたんスけど……。




「あの……」

「何」

「名前聞いてもいいッスか?」

「嫌……だ……」




フラッ




「「!」」




バシャッ




倒れた拍子に水飛沫が飛んだ。俺も黒子っちも突然だったの事だったから、その場で固まってしまった。

次の瞬間には信じられないスピードであの子の近くに駆け寄り、声を掛け、自分でも信じられない早さで俺ん家に運ぶッスよ! 何て黒子っちに言っていた事に、自分自身が一番驚きを隠せないでいる。

走りながらも成(な)るべくあの子が痛くない様に、苦しくない様に走る。こんな時に紫っちが居てくれたらなんて考えたッスけど、面倒くさそうにされるのが落ちな気がした。

紫っちはそういう人ッスから。




「もうすぐッスから!」

「っ、」

「はぁ……はぁ……」




今はただ走るしかない。俺ん家まで死ぬ気で、雨が降る中俺も黒子っちもひたすら走った。

何も考えずに、ただただ走る。

そうこうしている内に自分ん家に着いていた。人間やれば出来るのかと思った瞬間だった。

俺は玄関ドアを勢い良く開け、靴を脱ぎ黒子っちがあの子の靴を脱がせ全速力でリビングに向かい、リビング、自分の部屋、風呂場の順に駆け回る。なんてご近所迷惑な奴何だ俺。

そんな事を気にしている暇もなく、大急ぎで軽くシャワーを浴び、バスタオルで乱暴に髪を拭き、服を着て、タオルを出し、またリビングへ走る。正直バスケした後とは思えない程、短時間にテキパキと動く身体に明日結構な筋肉痛になりそうッス。

ボケッとする暇もなく慌ててリビングへ戻ると、黒子っちが珍しく困った顔をしてた。何に困ってるか、最初は分からなかったけど、黒子っちの目線を追うと理解した。

だから声を掛けた。




「黒子っち!」

「黄瀬君」




ハッとした黒子っちも珍しいけど、今はそれどころじゃないんスよね。黒子っちにタオルを渡しあの子の身体を拭こうと思った……んスけど。

ちょっと待つッス……この子「女の子」なんだよね? あれ? 如何やって身体拭けばいいんスか???




(拭くなら先(ま)ずカーディガン脱がして、リボン解(ほど)いて、Yシャツのボタンを……)




って、ダメッス俺!! 何考えてんだ?! そんな厭(いや)らしい意味で言ったんじゃ……! いや、風邪を引いたりたら大変ッスからね、覚悟を決めるんス自分!

ある程度覚悟を決めて俺と黒子っちは、あの子の身体を慎重に優しく丁寧に拭いていく。所々に見える痣が見ていられなかったけど……。

両手足を拭き終え、身体を拭く為にYシャツのボタンを一つ一つリズム良く外していく俺。最後のボタンを外し終えたのと同時にとんでもない衝撃を俺と黒子っちに与えた。




(な、何だよこれ?!)




俺達が見たのは、両手足よりも更に醜く見ていられない酷く状態で、気持ち悪さを覚える位の痣。……いや、最早痣と呼べない位赤黒い身体。

此処まで酷いとは思っていなかったから、涙が出そうになった。きっと辛いのは、今目の前にいるあの子な筈だ。

俺が涙を流した所で何にもならないのに、悔しさと怒りの感情を出しそうになった。だから必死に耐える。

この如何しようもない怒りをぶつける訳にはいかなかったから。


──数分後掛けて拭き終えると、ふぅ……と息をついた。その時、ふとさっきの黒子っちの言葉を思い出した。




『この人、沢田 空さんっていうみたいですよ』

『え?黒子っちなんで名前知ってんスか?』

『それです』

『? 生徒手帳ッスか?』




そういえばあの子の名前、知らなかったッスよね?

ふと、床に置かれた生徒手帳を見た。




「並盛中学 二年A組 沢田 空……へぇー学年同じなんスか」




この時俺は、当たり前と言えば当たり前なんスけど、初めてあの子の名前が沢田 空≠セと知った。




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あきゅろす。
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