キセキの秋桜
22.不思議な気持ち(黒子side)
雨の中で見掛けた時、また会えたと思いました。けど、あの時とは違う雰囲気だったのには少しショックでした。
あの時は偶々(たまたま)黄瀬君と一緒に帰っていた。今思えば、良かったと思っている。まさか、彼女にまた会えるとは思っていなかったから。
でも、あんな大雨が降っていて、遠目でも分かる位酷い怪我をしている上に足元も覚束ない感じだったのには、驚きました。だからでしょうか、黄瀬君とボクは思わず歩みを止めた。
「あれ? あの子、この前の……」
「あんな所で何してるんスかね?」
何故だろう。ほんの少し本当に一瞬、放っておいたらダメだ、そう思った。隣に居た黄瀬君も同じ事を思っていたらしく、ジッと彼女が居る方向を見ている。
それに様子と雰囲気が違って、逆に怖いとも思った。ボクは、今不思議な感覚なのか感情なのかよく分からないけれど、自分でも変な不安感を感じます。
傘に当たる雨音を聞く度に不安感が募っていくのが分かる。この時程雨が止んで欲しいと思った事はありません。
(嫌な予感がする……)
彼女を見付けてから一体何分経っただろうか。話した事もない、況してや違う学校に通う同じ学年の子の事がこんなに気になるのは、何かあるから? 放っておけない雰囲気だから? 一体、この感情は何でしょうか……?
全速力で走りたい所ですが、降り続ける雨が中々止まず、少し早歩きしただけでも、傘から冷たい雫が自分にかかってしまう。………冷たくて、雫がかかる度にジャージが湿って来て気持ち悪くて仕方ないです。
数分後、探して居た彼女が目の前にいた。見覚えのある制服、髪の色、髪の長さ、思い返してみれば、探し人と一致する。
「あの、」
「何」
「名前、聞いてもいいッスか?」
「嫌……だ……」
フラッ
「「!」」
バシャッ
一瞬何が起こったのか分からなかった。本当に一瞬だったけれど、彼女が急に倒れた。それだけは分かったし、頭の中では状況を把握し一気に何かが覚醒した。
ボクより先に行動を起こしたのは、黄瀬君でした。黄瀬君は慌ててボクが貸していた折り畳み傘を畳み彼女をおぶって、此処からだと黄瀬君の家が近いらしく、黄瀬君の家に彼女を運ぶ事になった。
彼女は夢でも見ていた様で、最初は薄らと笑い、段々と眉間に皺を寄せ始める。嫌な夢か苦しい夢でも見ているのか、少し魘されていて、夢の中だけでも楽しい夢を見て欲しいと、たかが知れてるかもしれませんが小さく願ってしまった。
彼女をおぶり雨に打たれながら焦った表情で走る黄瀬君、器用にも傘を差しながら同じく焦った表情で走るボク。早く着かないかと気が焦ってしまう。
(黄瀬君びしょ濡れですけど……大丈夫でしょうか?)
色々と考えている内に黄瀬君の家に着いていたて、黄瀬君は慌ててリビングへ行ってしまった。……ボクは如何すればいいのだろうか。
取り敢えず折り畳み傘を畳み「お邪魔します」と一言断ってから、上がらせてもらった。
(無駄に広いですね……)
リビングへ入るとテーブルやソファーやその他諸々があり、ソファーに彼女が濡れたまま横たわっていた。黄瀬君は何処かに行ったらしく、人の気配はありません。
改めて彼女見てみると顔にはガーゼ、両腕には湿布と軽く包帯、足にも所々に軽く湿布が貼ってあり、痛々しくて思わず目を逸らした。
(鞄……中身濡れてたら大変ですよね)
彼女には申し訳ないですが、スクールバックのファスナーを開けた。中は綺麗に整頓されていて、几帳面な人なのか綺麗好きなのかは定かではないですが。
中身が濡れていない事を確認して、ふと生徒手帳が目に入った。生徒手帳を拾うと、名前、学年、学校名が書かれてされていた。
「並盛中学 二年A組 沢田 空……この人沢田さんって名前だったんですか。まさか学年が同じだったなんて」
驚いたのは、学年が同じだという事。童顔のせいなのか身長が小さいからなのか、一つ学年が下だと勝手に思っていた事に、ボクは失礼な事を思っていたのかと申し訳ないと思いました。
沢田さんの生徒手帳をスクールバックに戻さずに床に置くと、沢田さんの方へ身体を向き返る。ソファーの上で苦しそうな表情をしている沢田さんに如何すればいいのか分からない。
暫くリビングには静寂が続いた。沢田さんは呼吸しずらそうにボクはただ見てるだけの状態が続く。
時間が過ぎていけばいく程自分には出来るがないか探してみる。……でも、何も無くてもどかしくなる。
それから暫くして、着替えて来たらしい黄瀬君が慌ててタオルを持って戻って来た。
「黒子っち!」
「黄瀬君」
タオルを持って来た黄瀬君とボクは、如何しようか悩む。数秒の沈黙の後、沢田さんの身体を拭く事になり、黄瀬君が何かぶつくさ言っていましが、渋々と言った様に優しく、丁寧に身体を拭いていく。
二人で身体を拭いていく内に、沢田さんの身体のあちこちにある痣を見てしまった。最初は右腕といった様に左腕、足といった順番に身体を拭き進めていく。
そして、胸辺りを拭こうと黄瀬君が沢田さんのYシャツのボタンを全て外し終わった時、黄瀬君もボクも目を見開いた。何故なら……。
「「……。」」
──沢田さんの胸から下が酷く鬱血した痣を越えて、赤黒くなっていたから……。
気持ち悪さを覚える程の赤黒さに、息苦しいそうな沢田さんの顔を見てしまう位の酷さだったからです。
気を失っている沢田さんの顔は、汗が凄かった。冷や汗か脂汗から来るものなのかは、分からないけど……辛いとは思う。
誰が此処までしたのか気になった反面、意味の無い怒りを覚えた。黄瀬君も同じだったみたいで、怒りを抑えてました。
それでも、風邪を引かない様に沢田さんの身体を拭き続けた。
「あんな状態で雨の中歩いてたっていうんスか!?」
「辛かったでしょうね」
「辛いってレベルじゃないッスよ!?」
「……そうですね」
「……。」
身体を拭き終えてからもボク達はあの痣の事と辛そうな顔をしていても普通に立っていられた沢田さんが信じられないと話していた。チラッとソファーに横たわる沢田さんを見てみると相変わらず汗が凄い。
どうも出来ない事に何も出来ない自分自身に怒りを覚えた。
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