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十人十色




本当に好きなものを、真正面から好きだと素直にいえる奴は凄いと思う。

それを奴らはとても自然に、飾らない言葉で、ありのままの言葉で、真摯に伝え合っている。


そしてその言葉達はとても綺麗でキラキラ輝いていて、言われている者でない者の胸にまでズドンッ響いてくる。胸に響く衝撃はハンパじゃない。この時ばかりはソイツ−田島にうっかり惚れそうになる。そしてその直球極まりない言葉を受け取るヤツ−泉も特に恥じる事も無く、田島と同じ様な言葉ではないけれどそれに近い言葉を返答してくれるものだから目も当てられない。


元々スキンシップの多いヤツラだったから、これも何かの冗談、言葉遊びの延長線なのだろうと思っていた。しかしそれが冗談でなく、本気であると言うことが発覚したのは、遊びだと思った日の放課後という最速極まりないものだった。そして俺と花井の関係は野性児田島と一際観察眼の優れた泉には付き合いたての頃から知っていたと言うこともわかって、恥ずかしい思いをしたのも、同じ日の出来事。

その日からと言うもの、俺達は野球部という小さな世界の中で、貴重な同志を見つけ、運命共同体を共にする事となったのだが・・・








「俺、貴重な休みもお前らバカップルと過ごす気はねーんだけど?」

「それはこっちの台詞だっつの。つかバカップルはおめぇらの方だろが」



久しぶりの休みに、花井と出掛けることになった。行先は少し遠い場所にある球場。俺が好きな球団の試合があると花井は言って来た。そして少し吃リながら、その日が丁度休みであることと、一緒に行かないか?という付き合いたてのカップルの彼氏が彼女に初デートを申し込む時ってこんなのか?ってくらいに顔を真っ赤にしながら、誘われた。

その熱は俺にも伝染して、上手く返事は出来なかった。



そして待ちに待った日が来た。花井は寄る場所があるからと別行動の後落ち合うことになって、俺は指定された場所で待っていた。すると向こうから、見慣れ過ぎたヤツを見つけることになるとは思いもよらなかった。見かけただけなら、お互い見ない振りも出来たろうに、泉は迷うことなく俺の隣に腰を据え置いてきた。待ち合わせ場所も被っているとは・・・。


つうか、俺と花井のどこがバカップルだっつの!
そう言うことは自分を省みて言えよな、なんて思っていると心の声が漏れたとしか思えないタイミングで泉が口を開いた。




「つうか俺らのどこがバカップルなんだよ」



炎天下に近い日差しを浴びながら、何処かで買ったであろうペットボトルの封を開けながら、ムスッとした顔で阿部に言い放つ。それに阿部は無自覚って恐ろしいな、と思いながらも普段感じている事を包み隠さず、泉に伝える。



「好きだの愛してるだの、人目のあるとこで言い合うあたり?」



人目が無くても好意を口に出せない自分にとって、田島と泉は羨ましいと思う半面、最近は疎ましく思う。しかしそれは自分の問題なのであって、泉達にぶつける感情で無い事はわかってる。どうしたらそんなにも素直に、綺麗に、羨むくらいに素敵な恋愛ができる?なんて聞けやしない。だから一般論を言ってみたつもりなのだけれど・・・



「なにそれ、苦情?それとも相談?」



泉は阿部の内情を汲み取り、問いかけて来た。どこまでも食えない奴だよ、と阿部は悪態吐くも、嘘をついても無駄だと思い、素直に頷く。すると泉は「珍しい〜」と一瞬驚き、そして大笑いし始めた。こっちは真剣なんだぞ!と阿部がガァっと吠える。しかし沖や三橋ならまだしも、相手は泉なのであって効果は全くない。泉は一頻り笑い終えると、目尻に溜まった涙を拭いながら、



「んなの、好きなんだから伝えて当たり前だろ」



だから付き合ってるんだし?伝えなきゃ損じゃねぇ?なんてあっけらかんと言いながら、ペットボトルの中身を飲み始めた。爆弾発言と言うか、男らしすぎる発言に阿部は驚く事しかできない。しかしそんな阿部を余所に、泉はプハッとペットボトルから口を離して、



「まぁ人それぞれのカタチがあんだよ、」



俺、田島の真っ直ぐで馬鹿正直で、明け透けなトコが好きなんだぜ?それが無くなったら嫌いってわけじゃないけど、あんな風に伝えてこないと田島じゃないっていうか、さ。だから俺らはコレでいーんだよ。

って言うのは最近気付いたことなんだけどな?

そりゃ俺だって最初は田島の暴走車両みたいな発言に頭抱えたけど、これも一つの愛情表現にカウントすりゃ訳ないぜ?犬は逃げれば逃げるだけ追っかけてくっからな、先手打ちゃいーだけの話しだ。



なんて少し惚気ながら、そして男らしすぎる発言をしながら泉は立ち上がる。そして座っている俺には見えないが、誰かに向かって手を振り始めた。そしてその手を振った人物の元に、向かうのか置いてあった荷物を取って、泉は少々カルチャーショック的なものを受けている阿部に一本のペットボトルと一つの助言を残した。





「阿部は阿部の、花井とのカタチを見つけろ」





じゃあ俺、田島ントコ行くから、と言って、人混みでもなんのその。何かのコントの様に大きく手を広げて待つ田島に、そのコントに乗っかるテンションで、けどその行動はネタでもなんでもない本心で泉は抱きつき、田島の行動に応えた。その光景は犬コロがふざけて戯れてるようにしか見えないから不思議だ。けどあれはあの2人だけに許されたスキンシップの取り方だ。泉の言う、俺と花井のカタチじゃない。


じゃあ俺と花井のカタチってどんなだ?

まだ半分ほど中身の入って程良く冷えたペットボトルを、額に当てて熱を孕んだ頭を動かす。



伝えてみる?抱きついてみる?


そんなの俺じゃない。きっと花井も吃驚するだろうし・・・どれが俺達に合うんだろう?と考えていると、己の足元にフッと出来た黒い影。その出来た影の元を辿るようにゆっくりと視線を上げれば、そこには肩で息をしている、待ち人だった花井が立っていた。



「・・・おっせぇんだよ」



可愛くない物言いしかできない自分が恨めしい。けどそんな事花井は気にも留めずに、「わりぃな」と謝りながら、阿部の頬にある物を当てる。急な事と、そして当てられた物の温度に驚いて、阿部は声にならない悲鳴を上げた。


それに花井はまた一つ、「わりぃ」と笑いながら謝り、自分が被っていた帽子を阿部に被せる。



「つめてぇ」

「けど気持ちいいだろ?」

「ん、」



泉が押しつけていったものと同じ銘柄のペットボトルが、頬に当てられた。買ったばかりなのか額のソレよりも冷えていて気持ちいい。まだまだ夏は遠いと言っても、日中の太陽は鬼のように熱い。火照った身体に、冷たい温度が滲み渡ってくのがわかる。




その気持ちよさを体感していて、花井といる時のソレに似ている気がした。




花井自身も熱くなったりすることがよくあるけれど、その熱を下げるのによく俺は駆り出される。そして同時に俺の温度を下げてくれるのは花井だけだ。怒っていても花井の声だけはちゃんと聞こえてくる。

傍にいたら安心すると言うか、心地良いと言うか、言葉にするならそんな感じ。
言葉にせずとも花井は俺をわかってくれるし、俺も花井の考えてる事は大体分かる(というか顔に出てる)


あれ?じゃあこれが俺と花井のカタチなんじゃないか?と分かったある日の出来事――。




















(同じ人間が存在しないように、同じ愛し方なんて存在しないのです)






(飲みモン被っちまったな)
(いや、これ俺ンじゃねぇし)
(は?じゃあ誰のだよ)
(泉の)
(・・・来てるのか?)
(おぅ)
(1人で、なわけないよ、な?)
(・・・おー)




折角誰にも邪魔されずに2人で過ごせると思ったのに!!!



見つかったらソッコー逃げっぞ!
んなことしなくても、アイツら近寄って来ねぇと思うけどな



アイツらもアイツらで2人きりになりたいだろうからさ。


っていうのを阿部が言わないのは、2人きりじゃないってことにショックを受けている花井が面白くて仕方がないからだと言うのは、また別のお話・・・。





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結生さん宅にて二万打リクをして強奪してきました^^←
結生さんの書く泉受けは好きなわたしが花阿と田泉という無茶ブリをしたのにこんな素敵な作品を…!
こういう花阿が好きすぎてどうしたらイイですか←
阿部に帽子をさりげなく被せる花井に最大級にときめきました><
そして泉おっとこまえー!←
お話、本当にありがとうございました!




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