自惚れてもいんじゃねーの?
「まわしを取ろうとしない相撲なんか認めねェ」
阿部の愛情表現は手荒い。
「腕と腕組んだんじゃレスリングだろ。だからあそこはもっとこう……」
「ちょ、あべ、それベルトだからまわしじゃないから!」
女が強い、女のルールで育ったオレや水谷には、たまについていけないところがある。
「ついでに言うと、柔道の王道は一本勝ちだ」
「うわ!! ころぶ! 危ないって!!」
「これ大外刈りな。しがみ付くなよ、支えてやってんじゃん」
「無茶言うなよ〜っ」
「阿部、そのへんにしとけ」
持ってたノートで軽くポンと頭を叩けば、あっさり水谷を解放する。
「加減してるって」
「知ってる。けど見てる方がこえぇ」
別に水谷が何かをやらかした訳じゃない。
阿部にとってはただのスキンシップ。その相手に選ばれるのは愛情表現だ。
そのへんが当然の事として理解できるのは田島と泉くらいで、この理不尽な愛情表現を多分与えられながら育った泉は、たまにすごく嫌そうにこの様子を見ていく。
されている事はともかく。
ちょっと水谷が羨ましいと思ってしまうオレは、マゾっ気でもあるのか。
認めたくねーな……
「花井、」
「なに……わっ!?」
振り向こうとしたら、頭に巻いて後ろで結んでいたタオルの端を引張られてバランスを崩す。
首を庇って咄嗟に腰を落とした体勢で、顔をフワリと新しいもの特有の匂いが包んだ。
掴まれたまま落されたタオルの代わりに、頭の後ろで新しい結び目が作られる。
「え……阿部?」
「似合ってんよ」
視界が奪われた状態で阿部の声だけ聞いて、タオルをずり上げた時にはもうそこに阿部の姿はなかった。
「……ああ? なに……」
「照れてんじゃないの?」
「はァ?」
「だってプレゼントでしょ? ソレ」
プレゼント?何で?
だって誕生日なんか一週間も前だ。
「……っとりあえず追っかける」
「いってらっしゃ〜い」
一週間前の誕生日は、平日最後の週末で。
一年が入部してきて大所帯になってから、自然と部員の誕生日も「おめでとう」って言うだけになって。
去年は合宿前で誰も知らなかったオレの誕生日も、今年は篠岡の一言から全員に口々に祝って貰って、そん時。
阿部はしまったって顔をしていなかったか?
翌日から合宿で、ひとつ年取ったなんて感慨もなく部活に明け暮れて、合宿から帰ってきたのは昨日だ。
じゃあ昨日解散した後、買いに行ってくれたのか?わざわざオレのために?
「……阿部っ!」
通路を曲がったところで、見慣れた後ろ姿を呼び止めた。
振り向いた顔は目を見開いて後、一気に朱に染まる。
駆け出そうと一歩踏み込んだところでその背後に追いつき、手首を掴んだ。
「逃げんな…!」
「いやだ」
「なんで」
「……っはずかし、い」
「恥ずかしくねーよ」
「はずかしい、って!」
真っ赤になってオレの手を振りほどこうとする阿部の肩をもう片方の手で掴んで正面から視線を合わせる。
「恥ずかしくない!」
「はずかしーよ! 何でンなプリントがふつーに似合ってんだよ!?」
見つめ合っていた、つもりが、
よくよく阿部の視線を辿ると、少し上のほうにずれていた。
片手でズルリと、新品のタオルを頭から取る。
そのタオルにプリントされていたのは……
「……カピバラ?」
オレはそのゆるキャラを知っていた。主に妹の携帯ストラップや小物で。
「信じらんねー…似合わねーって笑いが取れねェと、シャレになんないだろ……」
タオルの表面にぎっしりプリントされたカピバラは、近付いてみないとそれとわからないデザインで、離れてみれば茶色と紫とピンクの迷彩模様にも見える。
じゃあ阿部は、ウケ狙いで変なプリントのタオルを買った事にしてオレにプレゼント……
「……阿部、照れ過ぎ」
「うっせ」
「かわいい」
「イラネー」
「ありがとう」
「……おぅ」
離れて見たらそれとわからない変プリントのタオルみたいに、口が荒くて腹黒い阿部がオレにはいちいち可愛くしか見えなくて。
いやアレか。惚れたなんとかってやつか。
照れまくる阿部の手首を掴んだまま、堪えきれずににやけたら、背後を取られて腕で首をホールドされた。
苦しくて「ギブ」を繰り返したけど、オレのにやけた顔は元に戻らなかった。
だって阿部のコレは愛情表現だ。
だからもしかして、
自惚れてもいんじゃねーの?
(どこから見てもバカップル成立してるのに)
(気付いてないのは本人たちだけ)
―――――
わたしなんぞの誕生日ということでナツさんからいただきました。
あああああ><*!(悶え)
もうかわいいですかわいいかわいいかわいい←言い過ぎ
カピバラが似合っちゃうそんな花井が好きです(笑)
もうどこでもイチャイチャしてなさいバカップルめ^q^!
ナツさん、本当にありがとうございました!
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