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恋愛の掟


最初、阿部はいやなヤツだった。人に勝ちを見据えた意地の悪い三打席勝負を吹っかけてきやがった(ノッたのは俺だけれども!)。そしてその嫌なヤツは野球部の明暗を決める試合のクジを引く会場では「クジ運悪くても諦めるな」とかテンション下げる様な事をいう酷いヤツに昇格?された。しかしそれも今じゃ可愛い、笑える過去となったのはいつのことだっただろうか。


だって今では俺と阿部は恋愛のオツキアイをしているのだから。


いやまぁ確かにそんな過去の話と言っても、現在でも阿部は嫌なヤツで酷いヤツっていうのは変わってはいない。ただそれを上回る“好意”が驚異的な勢いで増していった。


もちろんお互いに、だ。


だがしかし好意を持ったからこそ、阿部が嫌なヤツや酷いヤツになる場合が出て来てしまったのだ。それはというと・・・



「三橋!ホラ、手ぇ寄越せ」

「は、はいっ」



パシっとマウンドに立つ度に三橋の手を要求する阿部。そしてそれに応える三橋。あれが俺達、野球部内の緊張してるかしてないかを測るための行為だというのは皆が皆知っている事だ。しかし普段の三橋の眼が尋常じゃないくらい阿部を追っている事はきっと阿部本人は一切合財気付いていない。それを発見できたのはきっと三橋が俺を同じ好意を阿部に抱いているからだろう。

まぁそれはまだイイとして、次は田島だ。アイツは事あるごとに阿部に抱きつくわ、じゃれつくわで見ていて正直良い気はしない。むしろイライラする。けどそれを表に出すのは主将のすることではないので、必死で堪えていっつもやんわりと田島を阿部から引き剥がす。

水谷も田島と同じような事をしているがこれは阿部自らが制裁を加えているので、無問題だ!と言いたいのだけれどあのバカが俺と阿部が話している所に乱入してくるのは腹立たしくて仕方が無い。





阿部は妙な程にモテる。しかも厄介そうなヤツにばかり。
しかも俺の苦手な本能で行動する、言っちゃなんだが動物的なヤツにモテる。


そしてそれを阿部は気付いていない。だからこそ嫌なヤツで酷いヤツになってることも無自覚だから始末に負えない。


まぁ一番悪いのは、アイツらなんだけどな!!!そして一番格好悪いのは、こんな情けない事を考えている俺なのだけれど・・・。





グラウンドでは三橋、ベンチや部室では田島、教室では水谷が悉く俺と阿部の間に割り込んでくる。それが酷くストレスとなって、今日という今日はぜってぇ邪魔されてたまるか!!!昼休みくらい2人きりにさせろ!!と意気込んで阿部を連れて、怪談話や噂話のおかげで人があまり立ち寄らなくなっている今では使われていない焼却炉近くにやってきた。どちらかと言えば噂や怪談を信じないヤツなので、すんなりとついてきた。


そしてようやく2人きりになれた、話が出来る!と思いきや・・・・・







「わっ、ちょ・・・んなトコ舐めんなって」

「・・・・・・」

「こーら、っあ、ん・・・くすぐってぇってば」




先に言っておこう。ここには俺と阿部の2人きりで先客はいない。しかし俺はまだ阿部に何もしちゃいない。触れてすらいない。なのにどうして阿部がこんな声を上げているのかって?そんなのこちらが聞きたい。というかまずはどうしてコイツがここにいるのかを知りたい・・・昼休みなんだからモモカンはまだ学校に来てないだろうが!!



「アイちゃ、っん・・・てば、やめっ」



青少年には辛すぎる声を惜しげも無く漏らす阿部と、普段からなぜか阿部に懐きまくっているモモカンの愛犬、アイちゃんはお散歩中だったのか俺達を見つけたかと思うと嬉しそうに駆けよってきて・・・・阿部に飛びついてきた。そしてそのアイちゃんを普段は見せぬ柔らかい笑顔でその腕に招き入れ、わしゃわしゃと心地よい毛並みを撫でる。そして現在、校舎に凭れかかり、アイちゃんと楽しそうに戯れる阿部と1人寂しくちょこんと体育座りを決め込んだ俺。さすがにそんな声を隣で上げられて我慢もクソもなかった。




「だぁぁぁぁっ!!!」

「っ!急に大声出してんじゃねぇよハゲ、アイちゃんがびっくりするだろうがっ!!!」




胸の辺りに前足を置いていたアイちゃんに阿部は「なぁ〜」なんて言うと、アイちゃんは返事でもするかのように阿部の頬やら唇やらを舐めだした。しかしやはり犬と言うのがあってか、阿部はもちろん無抵抗無反応、むしろ嬉しそうにしている。そんな姿に花井もキレた。




「ひゃっ!!」




それなりに弱いと幾度かの経験で判明した阿部の性感体である耳裏をペロリと一舐め。それだけで阿部は良い声を上げた。その声に少しの優越感を覚える。犬に対して・・・と思われるかもしれないが、俺にとっては忌々しき問題なのだ。




「なにすんだ!」

「んだよ、アイちゃんがいいなら俺にも舐めさせろよ」

「アイちゃんは犬だっつの!バカかてめぇは!!!」

「ふぅん・・・犬なら良いわけね、ワンッ」




そんなに動物的なヤツが良いなら俺もなってやろうではないか!ガァッと阿部がアイちゃんを胸に抱いたまま顔のみを向け、怒りをあらわにしてきた。しかしそんなのお構いなしと、俺は犬の泣き真似をしながら両手でアイちゃんを支えるのに一杯一杯な阿部の耳に再び舌を這わせて、今度はオプション一つ追加で甘噛みもお見舞いしてやった。ゾクリと阿部の身体が震えるのが、少し、ほんの少しだけ触れて繋がっていた舌先に伝わって来た。それが面白くて何度もカプリカプリと甘く噛んだり食んだりしていると・・・




「ゃっ・・・・あんっ!」



横顔しか伺えないのが残念なくらいに阿部の顔は紅潮し、うっすらと開かれた唇からは甘い声と息が漏れていた。しかしそれも束の間、阿部に遊んで貰っていたアイちゃんは相手をしてくれなくなった事が嫌だったのか、はたまた阿部を独占する花井が嫌だったのか・・・



わんっ!!!




ひと鳴きで、阿部の意識を甘い世界から救い出したのは小さな小さなお犬様だった。そしてそのお犬様に阿部はありがとうとお礼にまたしてもキス一つをくれてやっていた。俺には睨みしかくれなかったというのにだ。全くお前の彼氏は一体誰だよ、と心底悲しくなって再び体育座りの体勢に戻ろうとした瞬間、誰かに足を割開かせられてドスッと胸に重い衝撃が走ったかと思うと、眼下にはツンツンの黒髪が広がっており・・・つまりは阿部が俺の足の間に腰をおろし、人を座イスか何かのようにして背を預けて来たのだ。そしてそんな傍若無人な行動をしてくれなさったヤツの腕の中には相変わらずのお犬様の姿があった。





阿部とお犬様・・・アイちゃんの距離は変わらない。

けれど俺と阿部の距離は大層近くなった。



もうこれだけでも幸せだと思うのは、俺が阿部に惚れまくっているからだろうか?自分の手の中に阿部がいる、ただそれだけで幸せだと言えそうだ。いや、絶対に言える。





恋は惚れたもん負けってのは本当なんだなと、身にしみて理解したある日の昼休み―――。






















恋愛の掟
(惚れた弱み、とはよく言ったものです)







(けどやっぱりモテすぎんのも問題だよな)
(は?何の話?)
(阿部って鈍いかんなぁ・・・)
(バカにしてんのか?・・・つーかお前も、)
(俺がなんだよ)
((女子にモテてんじゃねぇか!とは言えねぇ・・・)・・・っんでもねぇ!)



当てつけだった、君が目を離さないように、愛してくれるように。






つーかモテすぎってどういう意味だ?俺に懐いてんのなんかアイちゃんくらいだろ。
・・・・・・・・やっぱ鈍いな。
んなことねぇっ!!



いや、十分鈍いです。





―――――
相互記念に結生さまにいただきました!
…し、死ぬ、萌えすぎて死にそうです><←
なんでしょうかこのかわいい二人は!嫉妬する花井がもう最大級にイイ!そして阿部があぁっ(落ち着け)
ごちそうさまでしたっ!
相互、お話、本当にありがとうございました!




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