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君が彩る僕の世界



※乙部がぐるぐるしてます
期限付きの恋でもいいの、の派生的なお話です



「花井くんが、好きです」


わかってたよ。
わかってたけど、いざ目の前にしたら、想像してたよりずっとずっと、痛かった。


「わたしと、付き合ってくれませんか」
「…っと、ごめん」
「…っ」
「付き合うとか、そういうのは…」
「付き合ってる人…いる?」
「うん、いる」
「そう、なんだ…」
「ごめん、俺、そいつが一番大事だからさ」
「…そっかぁ、わかった」
「悪いな、…でも好きになってくれてありがとな」
「ううん…こっちも聞いてくれてありがと、彼女さん、大切にしてあげてね」
「…おう」


ドクドクと心臓が尋常じゃない速さで脈打つ。
早く、早くここからいなくならなきゃ。
そうわかっているのに、足は金縛りにでもあったかのように動こうとしなかった。


本当に、偶然だったんだ。
今この場に、俺がいるのは。


放課後、部活前。
俺は掃除当番だったから、花井と水谷には先に行ってもらっていて。
俺も早く部活に行きたかったから、すぐ掃除片付けて。
急いで教室を出て、数分後だった。

見知った後姿を見つけた。
背が高いから、簡単に見つけられてしまう。
先に行ったハズなのになんでとは思ったけど、どうせなら一緒に行こうと思ってその姿に近づいたんだ。

そうしたら、見たくなかったものまで見つけて。


「じゃあ、俺部活あるから」
「うん、時間取らせてごめんね、部活頑張って」
「さんきゅ」


聞こえた声にビクリと身体が揺れた。
先ほどまで動かなかった足は急速に反応を示し、俺の身体は元来た方向へとダッシュで戻る。

ヤだ、イヤだ。
今花井に会いたくない。
こっそり聞いてたのもバレるし、きっと酷い顔だ。
そんなもの見せられない。


「…っ、は」


走って自分の教室に慌てて飛び込む。
ガラリとドアを閉めて、そのまま床に座り込んだ。
幸運なことに、教室にはもう誰もいない。

相変わらず心臓は忙しなく動いていて、もう身体に力が入らなかった。
じわ、と目頭が熱くなって、気付いたときにはポロポロと涙が零れだしていて。


「ふ、ぇ…」


わかってたよ、花井がモテることくらい。
そんなのとっくの昔から知ってたし。
それくらい、モテる恋人がいて幸せだなと思えるくらいでいないと。

そう、思うのに。


「ヤ…ふ、っく、ヤだ」


今回は断っていたけれど次はどうなるかわからない。
もし学年で一番かわいい子が告白してきたら?
年上の美人から迫られたら?

花井のこと信じてねぇの?
もちろん信じてる。
花井は俺のこと好きだって全身全霊で伝えてくれるよ。

だけど、だけど。
どこまで行っても俺は男で。
かわいい女子になんかなれなくて。
隣に並んでいたって、不自然なだけだから。
だからいつ隣にいられなくなるかわからないって、この前も覚悟したばかりなのに。
いつか離れる日が来ても、一緒にいられるなら幸せだと、そう思ったのに。


「はな、いぃ…やだ、うぇ…いなく、なんな、で…」


実際に花井が女子に告白されているのを見たら、どうしようもなくなった。
心臓が苦しい苦しいって悲鳴をあげて、こうやって涙まで溢れる。
こんなの花井に迷惑なだけなのに。
重いってわかってるのに。

花井が自分の隣からいなくなってしまう。
そんなこと考えただけで、涙が止まらなくなる。

どうしたらいいの。
俺、こんなに花井のこと好きで、好きで。


「…なにしてんだ、お前は」
「っ!」


ひぐ、と溢れる嗚咽をかみ殺して後ろを振り向けば、やっぱりそこにいたのは花井で。
思わず、後ずさる。


「なに逃げてんの」
「っ、なん…で」
「さぁ?なんでだろ?」


床に座ったまま後ずさり続ける俺に、ジリジリと花井は近づいてくる。

なんで、いるの。
どうして呆れた顔してんの。
嫌いになった?
俺のことめんどくさい、もうヤだって、そう、思った?


「ふぇ…っ」


俺の意志とは関係なしに涙は止まらなかった。
早く止めなきゃ、きっともっと嫌われる。
ヤだ、そんなのヤだ…!

慌てて涙を拭っても、やっぱり止まるわけはなくて。


「…ほら、そんな擦ったら腫れるぞ」
「っ…!」


いつのまにか俺の前にしゃがみこんだ花井が、ゆっくりと俺の手を止める。
そのまま優しく目元を撫でられ、ちゅ、と額にキスを落とされた。


「ふぁ…?」
「…ったく、お前は」
「う、ー…?」
「…見てたのか?」
「っ…」


花井からかけられた言葉にビクッと身体が揺れる。
これじゃあ見てました、と肯定してるようなもんだ。
…最低だ、俺。


「見てたんだな?」
「……ご、め」
「最後までちゃんと聞いてたのか?」
「う、ん」
「…最後まで聞いてたのに、なんで泣くんだよ」


俺断ってただろ?
そう言って困ったように笑った花井が俺の髪を優しく撫でるから。
…悪くない。
花井は、何も悪くない。
俺が、悪い、だけで。

俺は我慢出来ずに目の前の花井に抱き付いた。


「うお!…どした?」
「っ、う、ぅ」
「…阿部」
「ごめ、はな…ごめん…!」
「なんで謝んの?」


突然抱き付いた俺を花井はぎゅうっと抱き締め返してくれた。
それに酷く安心して、口から言葉が溢れだす。


「お、れ…っ」
「うん?」
「はな、が、すき、で…!」
「うん」
「けど、いつか…はなれ、なきゃ、だめ、」
「…離れる?」
「わか、てる…し、かくご、もして、た!…けど、っ」
「…」
「みたら、や、で…はな、いなくな、やだぁ…っ」
「…阿部」
「きら、にならな…で、ごめ…おれ、っ」
「阿部、もういいから」


花井は一度身体を離すと涙でボロボロの俺の頬を両手で包み込んだ。
花井の手のひらの体温が、じわじわと俺の頬に移る。


「…この間から、なんか変だなとは思ってたけど」
「ひ、っぐ」
「やっぱりそんなことでぐるぐるしてたのか」
「う、ぁ」
「そんな必要、ねーのにな」


ちゅ、ちゅ、と顔中に落とされるキスは、俺の涙を拭いとっていく。
それによっていくらか俺も落ち着きを取り戻すことが出来た。

ふ、と息を吐くと、花井は真剣な目で俺を見ている。


「阿部、聞いて」
「…」
「確かに、絶対なんて言えねーから、いつか離れる日は来るかもしれねーよ」
「っ、」
「でも、俺は」
「…?」
「俺は、阿部が俺のことを好きでいる限り、ずっと阿部が好きだと思う」
「…!」
「いくらかわいい女子に告白されようが、俺は、阿部じゃなきゃ嫌だ」
「はな、い…っ」
「だからさ、阿部、俺のこと嫌いになんなよ?」


そう言って笑った花井は、俺の大好きな花井で。
嫌いになるわけがない、と頬の手に自分の手を重ねた。
そうしたら、じゃあずっと一緒にいられんじゃねーか、って笑いながら言うから。

嬉しくて、嬉しくて。
俺は、そうだなって泣きながら笑った。





君がる僕の世界

(お前がいるなら、やっぱりそれだけで嬉しいから)
(俺の世界、お前が自由に染めていって)





―――――
はい、続き的な派生的なお話でした!←
かなり乙部ですね、わんわん泣いてますね。
乙部の花井は男前を心掛けていたり…←どうでもいい
ぐるぐる乙部おいしいです。
お待たせして申し訳ありませんでした!;
素敵なリクありがとうございました^^
來さまだけお持ち帰り可となります。




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