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しばらくただ立って去って行く榛名さんを見ていた。

…これで、終わったのか?

ふと抱き締めたままだった阿部を見れば、阿部も同じように立ち尽くしていた。
その小さな身体は、もう震えてはいなかったけど。

…それにしても小さい。
手を握ったときもその大きさの違いに驚いたけど。
抱き締めたその身体は、小ささと細さが目立った。
ぎゅっと抱き締める力を強めれば、今にも折れそう。
…なんかもう、ホント、守ってやりたいって気にさせるから困る。
いや、守るけどさ。


「…はな、い」
「…?」
「ごめ、ちょっと…いたい」
「え?あ?わ、わり…!」


動かなかった阿部が、俺を見上げてそう言った。
その言葉に慌ててバッと身体を離す。

離れて改めて思うけど、俺、こんなふうに阿部に触れたの初めてなんじゃねーの…?
手とか頬とか背中とか、そんくらいはあったけど、だ…だ…抱き締めるって。
抱き締めるってええぇ!?
なに、俺なにしてんの!
どんだけ無我夢中だったんだよ!どうした俺!
つーか途中好きとか口走ったよな俺うわあああ!


「阿部くん!花井くん!」
「っ、…阿部!」
「花井!」


パッと俺たちが離れたとほぼ同時に、遠くで俺たちの様子を見ていたみんなが駆け寄ってきた。


「どういうことかな」
「「…」」


ジロッと怒った目でモモカンが俺たちを見据える。
ヤバい、非常にヤバい。
そりゃ俺、殴られちまったし…当然だけど。


「阿部くん、どうして彼が来て、しかも阿部くんを殴ろうとしてたのかな」
「…、あ、の」
「それから花井くん、代わりに殴られたよね」
「っ、はい」
「花井くんは、なにか知ってるのかな」


ゴキッと手を鳴らしながらモモカンは俺たちから視線を外さない。

きっと俺の顔は真っ青だ。
だってなんて説明すりゃいいんだこんなの。
阿部が、その、榛名さんに暴力を奮われてたなんて、阿部はきっと他のヤツらに隠したいだろうし、言えない。
だからって、この状況をうまく説明する他の言葉なんて見つからない。
…このままだと、話がでかくなりそうだし。


「「…」」
「黙ってたらわからないよ」
「…う」
「ん、…っと」
「………あの、監督」
「!」
「…なに栄口くん」


困って何も口に出せずにいると、栄口がいつものような笑顔を浮かべて俺たちを見ていた。
…なんか、ヤな予感がすんだけど。


「監督、修羅場ですよ」
「はい?」
「実は花井が榛名さんから阿部のこと奪っちゃったんですよー、だから榛名さん怒ったんだと思います」
「う、奪う…?」
「そう、略奪愛ってヤツですよ略奪愛」
「ちょ…栄口!!」


何を言いだすかと思ったらコイツは…!
いや、きっと間違ってはねーけどさ!
今ここで言うなよ!
…ん?言ってよかったのか?
でもモモカンがこれで納得するなんて到底思わねー。
つーかほら、田島辺りが目キラキラさせてんじゃねーか!


「すっげー花井すっげー!リャクダツアイ!」
「叫ぶなアホ!」
「それは…ヘタレなキャプテンにしては頑張ったな」
「ヘタレってなんだ!」
「なるほどねー、そりゃ怒りますわなー」
「(…あ、もうなんか言い返すのも疲れた)」
「…そういう、こと」
「(!、モモカン…)」
「略奪愛、なら、しょうがないわね…」
「(いやいやいや!しょうがなくないだろ!)」
「…って、なるわけないでしょアンタたちー!!」
「いっ、だああぁあぁ!」
「〜〜〜〜〜っ!」
「ま、当然の結果だね」


案の定、俺も阿部も怒ったモモカンから頭に一発とんでもねーのをくらった。


「…花井くん、阿部くん」
「う…はい」
「恋愛するなとは言わないけど、部活にまで支障をきたすのには気を付けなさい」
「…はい」
「わたしからの一発で済んだだけイイと思うんだよ!」
「「はい」」
「…で、花井くんは保健室に行きなさい」
「あ、はい」
「それから阿部くん」
「…」
「阿部くん」
「っ、はい…!」
「…少なからず、阿部くんに原因があるんだから、花井くんに付き添ってあげて」
「……はい」


モモカンに言われ、みんなの声を背中に俺は校舎に向けて歩きだした。
…あー、コレで済んだだけマシか、うん。
マジ痛くて死にそーだけど。
みんなから略奪愛だのなんだのうるせーけど。


「…阿部くん、どうしたの?行きなさい」
「…?」


数歩ほど歩いてから、聞こえてきたモモカンの声に振り向くと、阿部はその場から動かずにいた。
ただ呆然と立っていて。

俺の推測だけど、きっと、気が抜けてんだと思う。
…一番頑張ったのは、阿部だから、な。


「…阿部」


俺はもう一度阿部のそばまで戻り、スッと目の前に手を差し出した。
阿部は、少し戸惑いながらおずおずと手を重ねてくる。

ぎゅっと、力を込めた。





俺はただお前の手を握って、お前は黙ったまま頷いて。





阿部の手を引いて、ゆっくり歩きだす。
後ろについてくる気配。

繋いだ手の温もりは、確かにそこにあった。
その手が冷たい、なんてことはなかった。




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