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ロマンチストの恋模様



クリスマスだのなんだのと浮かれる性分ではないことは、自分がよくわかってる。
イベントなんてもの、終わってから気付くような俺だ。

ただ、今年は。
今年は、いつもと違う。

俺の恋人は、相当なロマンチスト。
ロマンチスト…いや、記念日ヤローか?
こういったイベント事は、とても大事にするヤツだ。(俺の誕生日も然り)
そしてそいつと付き合っている俺は、それに付き合わされるわけで。
必然的にイベントに気付いてしまう今日この頃。


「寒い」
「そりゃ冬だからな」
「人、多い」
「クリスマスだしな」
「気持ち悪い」
「ワリ、人に酔ったか?」
「…帰りたい」
「もう少し我慢してくれ」


非常に楽しそうに、そして嬉しそうに、俺の隣を歩く花井は笑っていた。
ものすごい機嫌がいい。
クリスマス、だからだろう。
鼻歌でも歌いだしそうだ。
俺はといえば少し人の多さに酔ってしまい気分が悪い。
クリスマスだから、人が多いのは当然なんだけど。
正直早く家に帰ってぬくぬくとしたい。
でも花井と一緒にいたい。
なんて二律背反。

そもそも、なんでこんな状況なのか。
わざわざ外に出掛けようなんてなったのか。
発端はやはり、この隣のイベントバカだ。


『阿部、明日帰りにちょっと寄っていっていいか?』
『どこに?』
『あそこ、あの新しく出来たショッピングモール』
『…なんで』
『でけーツリー飾ってあるって妹が言ってたからよ』
『…見に行くのか?』
『ダメか?』
『や…(ダメっつーか男二人って画的にアウトだろ)』
『せっかくのクリスマスに何もねーのは寂しいだろ』
『………まぁ、いいけど』
『…マジか?』
『人がせっかく了承したのになんだお前は』
『もっと嫌がると思った』
『死ねハゲ行かねーぞ』
『嘘、冗談だっての!それじゃあ明日、な?』
『…おう』


そんなわけで俺は花井に連れられそのショッピングモールに足を運んでいるわけだ。

あえてもう一度言うが、俺はクリスマスだのなんだのと浮かれる性分ではない。
なぜここまで花井がイベントを気にするのかもあまり理解は出来ない。

ただ、花井の喜ぶ顔が見られるなら。
そんな理由で、今回はわりとすんなり了承した。(普段なら面倒だと足蹴にする)
…結局いつも折れてるけど。
まぁ、それも悪くないと思うようになったのは、だいぶ花井に毒されている証拠だ。


「お、あった」


花井の声にフッと顔をあげると、さらに混雑した波の中心に大きな木が一つあった。
それは離れて見てもわかるほど煌びやかに、鮮やかに輝いている。


「すげー…」
「あぁ…」


思わずポツリと呟くと、花井も感嘆の息を洩らしていた。

…大きなツリーを初めて見るわけではないのに、どこか感動を憶えたのはたぶん隣にいるヤツのせい。
来てよかったと思うのも隣のヤツのせい。
きっと俺も、いつのまにかロマンチストだ。


「…阿部」
「?」
「ん、こっち」
「え…あ、おう」


ちょっと感慨に耽って立ち止まっていると、花井に右手を引かれて。
そのままツリーから少し離れた場所へ連れられ、人の少ない壁近くに寄りかかった。
平気か、と顔を覗き込まれ、繋いでいない方の手で頬を撫でられる。
…あぁ、そっか、さっき気持ち悪いって言ったから。
大丈夫だ、というように花井に笑いかければ、安心したようでまた視線をツリーに戻していた。

ぼーっと二人で、ただツリーを眺める。
足早に流れていく人波。
家族連れやカップル、友達同士など、それぞれ思い思いのクリスマスを過ごしている。
赤、黄、青。
変わっていく装飾の色が、綺麗で、少し悲しい。
こうして変わる色のように、年月も流れていくんだ。
また新しい時間が刻まれる。

…来年も一緒に見たいと思うのは俺のエゴだろうか。
というか、来年も一緒に見れるだろうとどこか確信している自分が憎い。
うわ、俺、痛いな。

…花井はいったい、今何を想っているんだろう。
きゅ、と繋がれたままだった右手に力を込めてみた。


「………来年も、一緒に見に来ような」


すると花井はいとも簡単に俺が欲しかった言葉を笑いながらくれた。
俺の何倍もの力でぎゅっと手を握り返しながら。

なぁ花井。
俺、今、すっげー満たされてんだけど、わかるか?
来年とか、その先のことなんてわかんないけど。
きっとお前となら、来年もその先もずっとずっと未来も一緒にいられる。
そんなふうに思える。


「………うん、見る」


来年のクリスマスは、プレゼントとか、もっと恋人らしいことしてみようか。
そんな意味を込めて、俺は花井の肩にゆっくりもたれかかった。





マンチストの恋模様

(どうせ夢じゃないか、と笑ったりしないで)
(きっと現実になるから)





―――――
なんかもうやだかゆい!笑
花井も阿部もでれでれにしてみました、バカップルにイチャコラさせたくて^^←
一年ってあっという間で、でもすごくかけがえのないものなのです、なんてねっ
メリークリスマス2010!




あきゅろす。
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