Nobody But You



[おまけ]





「お前とヤりまくるのが生きた人生の歩み方なのか?」
「……この、クッソ……お前ぇ……」

後日。
ふと思いついたことを訊くと、ジャンは心底忌々しそうに低く呻いた。
目は見開き歯を食いしばり、手は殴ろうか迷ったのか宙を掴んで、骨の音が聞こえそうなほどわなわなと震えて指を歪めていた。

「そこは分けて考えろよ……俺だってまさかお前とこうなるなんて思ってなかったんだからよ……」

うなされていたときによく聞いた声音でそう吐き出したジャンは、痛いところを突かれたというのを通り越して、痛い腹を刃物で刺されたような顔色だった。この前「何故ついて来たのか」という問いに答えた時やたらと気まずそうにしていたのは、色々御託を並べておいて俺とこうなっているせいだったかも知れない。

「まさかって、別にものの弾みでこうなったわけじゃないだろ。お前が……」
「何だ! 何だ、おい! 今さらする話か?」

俺を殴る代わりに丈の低い草地の地面に平手を打ちつけて、クソ、と毒づいたジャンが背を向けて寝返りを打つ。裸の背に千切れた草が貼りついている。
真昼間の林の中だ。そこに二人して裸同然で寝転んでいた。人目もないのにわざわざ夜中に、明かりもない暗闇で抱き合う利点はあまりない。お互い恥じらいが消えてからは抱き合うならもっぱら明るいうちの、ある程度視界の良い水場の近い場所を選ぶことが多かった。

「おい、別に責めてるわけじゃないぜ?」

すっかり機嫌を損ねてしまった背中越しに、今地べたの草を叩き潰した手を盗み見る。ついさっきまでは俺の腿をまさぐって、足の付け根の骨を撫でさすっていた手だ。薄く笑みを浮かべて舌の先だけを合わせて互いにくすぐり合って、唇を重ねる直前、頭をよぎった素朴な疑問が口をついて出た。瞬間ジャンは表情を凍らせて、みるみるうちに怒りを露わにした。

「怒らせたかったわけじゃないんだ……」

背骨の浮いた皮膚の下はすっかり肉が戻って、元の見慣れた曲線を描いていた。そっと手を伸ばし、そこについた草を払ってみる。応えないかわりに拒みもしないのを確かめて、背に額を寄せる。男の肌よりも土と草の匂いが濃かった。死にはしないとひとりごちて、肩の骨が作る窪みを舐める。浅く吸いつく。

「……ジャン。お前とこうなれて良かったと思ってる」

肩が震えて、唇にその骨がぶつかった。それきりあくまで動かず、ジャンは無反応を決め込もうとする。とは言え好きにはさせてくれるらしいと、歯が当たって痛んだ唇を舐め、もう一度同じ場所に口づけた。背筋を伸ばし身を起こして、今度はジャンの、少し赤く見える耳の裏側に唇を寄せ。

「実際ヤるようになってからの方が上手くいってるよな。俺達……グエッ!!」

直後。
脇腹に容赦ないジャンの肘鉄を食らって、草っ原の上をのた打ち回る羽目になった。

「って……てーな! 何すんだよ!」
「わざとじゃない…」
「嘘吐け!」
「お前のデリカシーの無さに肘が滑ったんだ、許せ……」
「はあっ?」

フラリとおもむろに立ち上がったジャンは、何かひどく絶望した表情のない顔でいた。単に心底何かを軽蔑しているようにも見えた。何かって俺以外あり得ないが、わけが分からない。
聞き返して首を捻った俺が見えないかのように、ジャンは一人で先に服を着込むと、呼び止めるのも聞かず林を抜けていった。
そうしてその日の残りはこちらの存在を完全に無いものとして、徹底的に拗ね通した。
その晩はキスもなかった。



end.






あきゅろす。
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