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■ 1

薄暗い照明に誠司の視界がぼんやりとけぶる。
出張先のホテルの1室。
シャワーを浴び終え、バスローブ姿でリラックスしていた処、同行した後輩の大輔に誘われるまま、飲み始めたのが1時間前で。
これくらいじゃ酔うはずは無いと、誠司は思いながらも、目をしきりに擦っていた。

「どうしたんですか?」
「いや、おかしいな。疲れてるんかな〜?酒の周りが早い……」
「そうですか?遅い方だと思うけどな」
「え?」

何を言ってるのかと顔を上げた誠司は、ゆったりと座り顎に軽く指をそえたまま、ただ一点、誠司の顔をじっと見つめ続けている大輔の視線に気付き、思わず言葉を失った。
口を噤んで見つめてくる誠司の反応に、面白そうに薄く微笑みながら大輔が口を開く。

「効き目ですよ。あなたの酒に混ぜた催淫剤のね」

一瞬、聞き覚えの無い単語に言葉が滑り、何を言っているのか解らなかった。
だが咄嗟に頭の中で鳴り響いた警報に従い、1人がけのソファから立上がりかけた所で、肘掛けに置いた手がズルリと滑り落ちた。
その間、大輔は席を立ち、2人の間にある小さいテーブルを廻って誠司へと近付いてくる。

「動けないっすよね?」

目の前まで来て、覆い被さりながら呟かれた言葉。
それはまるで暗示の様に耳から入り込み、誠司の身体からより力を奪う。
信じられないものを見るように、軽く見開いた瞳でジッと見上げてくる誠司に、大輔はにっこりと柔らかい笑みを浮かべた。

「…誠司さん」

ねとつく様な甘い声で名前を呼ばれ、誠司の身体がカッと熱くなる。

「お前っ……何をっ!」

顔を寄せてくるのを、防ごうと手を持ち上げる。
しかしろくに力が入らない手は、大輔にやすやすと捕えられてしまう。
手にした指を大輔はうっとりと見つめ、舌を伸ばし舐め始めた。
1本ずつ丁寧に舌を這わせていき、指のまたをも念入りに擦り舐める。
まるで虫が這う様なジワリとした感触に、誠司は我慢出来ずに手を振払おうとした。
だが強く掴まれた手はビクともしない。
かえって、より執拗な舌の動きが施されてしまう。

「あっ……」

思わず漏れた声。

「気持ち良いでしょ?」
「そんな訳、あるか!」
「じゃ、これはやめとこっかな」

大輔は楽し気に呟きながら、誠司の手を呆気無く放棄する。
やっと自由になった手を取りかえし胸の前で握り込む誠司の姿を、大輔は横目でチラリと伺いながら、ベッドの上に投げ置かれた誠司のネクタイに手を伸ばした。
そして動きについていけないのを良い事に、誠司の目をネクタイで楽々と塞いだ。

「大輔!」
「はい?」

抗議の声にも全く動じない大輔は、抵抗する邪魔な両手も後ろ手に一纏めにし、誠司自身のバスローブの紐を 使い縛ってしまう。

「おい、大輔!悪ふざけが過ぎるぞ!」
「ふざけてなんていませんよ。俺は心底、本気です」

大輔の声が想像していたよりも耳の傍で聞こえ、誠司の身体がビクリと竦んだ。

視界を塞がれ、手も縛られて。
誠司はじっとソファに座った状態で、少しでも周囲の空気の動きを読み取ろうと息を殺す。
その噛み締められた唇を見つめ、大輔はぺロリ舌舐めずりをした。

「誠司さん」
「っ、なんや!?」

バスローブの前襟の下に手を潜り込ませ、両肩を撫でる様に、ゆっくりと脱がせていく。
もちろん誠司は身を捻り抵抗してくるが、両手を塞がれた状態のそれは、ただ身を震わせるにすぎず。
かえって、よりはだける結果になってしまう事に気付かない。

「………っ」

熱く火照る肌の表面をバスローブが滑り落ちる感覚に、思わず息を飲む誠司。
はだけた肩に触れるソファーの冷たい感触にさえ、肌を泡立てた。
それでも声を飲込む姿を見下ろして、大輔はそっと囁いた。

「問題です。これから俺が触る所はどこでしょう?」
「やめろやっ!」
「まだ何もしてないでしょ〜」

どこに大輔がいて、どこから喋っているのか。
ただ耳に届く大輔の声が、相手を意識せざるおえない状況を作り出し、同時に明かりのついた室内で今の自分 を見られているのだと言う事に気付かされる。
一度、意識してしまえば、もう頭から離れない。
せめて相手の位置だけでも特定しようと耳をすますが、ドクドクと脈打つ鼓動の音に邪魔される。
時折、はぁ、と息苦しさに耐えかねて大きく息を吐き出し、また口を固く噤む。
じわりと汗を滲ませながら、僅かに身体を揺らし、肌が擦れる感触にまたビクリ震え。
そんな誠司の痴態を、大輔は息がかかる程、近くで見つめていた。
不意にクスクスと声に出して笑う。

「ここ、赤くなってる」
「なっ…どこがや…っ」
「ここ」

首筋に顔を近付け、言葉と共に息を吐き出す。
おまけとばかりに、ぺロリと舌で舐めれば、誠司の肩が逃げる様にきゅっと寄った。


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