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■ 3

「取り敢えず俺の部屋、行くぞ」

せっかく二人っきりだと言うのに、かなり無駄に時間を消費してしまったと葉平は小さく舌打ちを零した。
専業主婦な母と授業時間の短い中学生の妹が揃って家にいないという貴重な状況なのに、このままでは光希を家に連れて来た意味が無い。
あと数時間で邪魔者が現れるかもしれない、その前に。

「……俺が顔だけじゃねぇ事を、たっぷりと教え込んでやる」

けっしてそれだけを光希が基準としていない事なんて充分に知り尽くしているが、改めて知らしめるのも悪く無いだろう。
すでに動き始めながら、その先を見上げて葉平はニヤリと人の悪い笑みを浮かべた。



トントンと木の階段を踏みしめ上る音に続き、腕を取られたままの光希が続く。
先程の怒りに任せた歩みとは違うので、もう振り解こうとせずに葉平の好きにさせる。
そんな光希の耳に届いた、物騒な囁きの欠片。
どうやらまだ腑に落ちていない様子の男に、光希はこっそり小さい溜め息を吐いた。
相手は人形だとか、そもそも恋愛対象に考え無いだろうとか、普通に言いたい事はいっぱいあるが。

「……だいいち、相手がいるだろう、あっちにはさぁ」

音にならない吐息の塊と共に、こちらも少しずれた言葉の欠片をこっそりと混ぜ込んで。
それでも気を抜くとにやけそうになるのを、光希は下唇を噛んでなんとか堪えていた。
だって人形相手にさえ嫉妬する程の愛を感じて嬉しく無い筈が無い。
緩まない力で掴まれたままの肘が感じ取る葉平の体温が、そのまま胸の奥にほんわりと熱を灯す。
あと数段、階段を上り終え、あいつの部屋の前に辿り着く。
それまでに先程のお返しと、自分が何よりも葉平を好きなんだと言う気持ちを込めて、不意打ちのキスを仕掛けよう。
光希はそのタイミングを頭の中で計りながら、階段の最後の段を力強く踏みしめた。


END

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