香餌 ■ 9 肘近くまで捲り上げた袖をくぐり、柔らかい先端の部分が素肌をつたい下りてくる。 二の腕の内側を這いずる感覚に、貴央の背筋が反り返った。 止めたいのに、止める術が無い。 しゅるるん。 もう片方の腕にも同じような感覚が走り抜け、同時にそれは足先からも始まった。 「うあっ…ぁ…、なんだ、これっ………はっ、はぁ……」 いつの間にか穴から入り込んできた無数の蔦が、貴央の眼前の壁を埋め尽くしていた。 それらが先を争うように床を這い、下からも服の中へと潜り込んでくる。 ついには胸や背中まで弄るよう這い回られ、貴央は凄まじい嫌悪感に襲われた。 だがそれ以上に、妙な快感も沸き上がるから、ますます青年は混乱する。 「なんでだっ…、あ…っ…、身体がおかしぃ……っん、く……」 気持ち的にはおぞましさしか感じられないというのに。 身体は異様な蔦の刺激を受け入れ、四肢が少しずつ力を無くしていく。 「ぅあ、あ……何がっ…した、いんだっ……こいつらぁ…あぁっ!」 胸を締め付けるように這っていたものが、偶然か乳首を擦り始め、貴央はたまらず肩を竦めた。 裏返った嬌声がガランとした空間に響く。 だがそんな事に構ってはいられない。 相手の意図は解らないが、あからさまな動きが続けば目的は確かだ。 下着の中にまで潜り込んだ蔓は、迷わず中心に絡み付いた。 そのまま刺激を与えるように、絶妙な力で揉みしだき始めれば、もう疑う余地は無い。 直球の快感に、青年は腰を振るわせ感じいる。 「ふぁああぁっ!」 ガクリと膝の力が抜けかけるが、腕の戒めを支えに引き上げられた。 壁から離れる事を忘れ、少しでも身体の感覚を苦そうと貴央は冷たい石壁に頬を押し当てる。 だが何も効果は無く。 噛み締める歯もゆるゆると開き、隙間から熱い吐息が零れ落ちるばかり。 断続的にビクビクと震える獲物に気を良くし、自在に動く植物はいっそう動きを強めていった。 しゅるり。 貴央のモノを捕えていたうちの一本が、不意にもっと奥へと進んでいく。 ぐったりと項垂れていた顔を、瞬間的に跳ね上げた青年は、信じられないと目を見張った。 「やめろっ、そこはっ!」 無意識に突き出ていた腰が左右に振られる。 しかしボトムの隙間から完全に入り込んだ無数の蔦は、何の支障も無いと生地を押し上げ表面に奇妙な模様を描く。 薄い尻を包むように這う蔦が道を開くべく、両側の尻たぶを左右に開いた。 その奥を目指すのは、前からまわってきた一本。 彼自身の先走りで濡れそぼる蔦が、固く閉ざされた後孔の淵を弄り出す。 信じたく無いが、確実に中へ入る気だろう。 そう確信した貴央は、再び激しくもがき始めるが、一度煽られた身体は簡単にまた力を無くす。 吹き出した汗に濡れる肌のあちこちを、別の蔦に誤摩化すよう弄られれば、意識は簡単に霧散する。 そもそも、これ程の快楽を味わった事が無いのだから、貴央には対処の仕方も解らない。 「はぁっ…ぁ…うんぅうぅっ!」 甘い刺激に喘ぎ、身悶える。 その良い感じに緩んだ尻孔に、濡れた蔦の先っぽが侵入を果たす。 「っあ! やめっ…入るなぁっ!」 ぐにゅん。 窄まる力に抵抗し、こじ開けるよう植物は身を捻ってくる。 しかも蔦は自身からじわりと粘液を吹き出し始めた。 その滑りを使い、先端が隙間をくぐり抜けようとする。 「はぁ…ぁ…はっ……ぅ、やぁ……な、にっ……?」 粘液に触れた後孔が、カッと熱をはらむ。 全身から汗が噴き出すのが解った。 更に身体中を這う蔦が、下肢のそれと同様にぷちゅぷちゅと粘液を吹き出し肌へ擦り付けていく。 「ぅあ、あ……熱ぃ…、は…ぁ…身体がっ……もっ…、んぅうっ!」 一気に増した快楽。 とうとう立っていられなくなり、貴央は頽れるよう膝を付いた。 両腕は高く縛められたまま、落ちかけた腰は全身に絡み付く蔦が支え持つ。 もっと良く動けるよう、両脚ははしたなく広げられるが、貴央にはどうする事も出来ない。 苦しい程の快感を持て余し、ビクビクと震えるばかり。 「ひぁっ……ぁ…ずるっ…て、あ…入って…く……っあ、あ……」 緩む隙間に差し込まれる異物。 このままでは体内深くまで、異世界の知らない生物が入り込んでしまうだろう。 どんなに快楽を与えられようと、何かを受け入れるべき場所では無い所へ、無理矢理突き入れられる恐怖は拭えない。 貴央は一纏めにされた両手で蔦を握りしめながら、コトンと目の前の壁に額を付いた。 「ぅ…ウルラっ……ぁ…ンっ……た、すけっ……っん、ぐ…っぅんぅうっ……」 絶望に沈む中、無意識に脳裏へ浮かんだのは、この世界で唯一、彼が頼れる男の顔。 こんな姿を晒したく無い。 刹那、そんな思いが胸を過るが、それ以上にこの状況から逃れたいという願いが勝った。 このまま植物に尻を犯されるなんて絶対に嫌だ。 しかもそれに快楽を感じ、達しかけているのが、余計耐えられない。 [*前へ][次へ#] [戻る] |