ひどくつたない告白
「どうして駄目なの」

胸ぐらを掴み上げて、ぐっと相手の顔を近付けて、自分も近づく。
絡み合う視線の先に、自分よりも色の濃い、橙がかった瞳。
目の前の相手は少し目を見開いて、苦しそうに顔を顰めた。

「・・・俺が、知るかよ」

冷静な言葉が頭に尖ったナイフを突き刺す。
ああ痛い。とっても痛い。それはまるで、噛みつかれているような痛さで。
どろりと流れ出る思考の渦に呑まれる。
これは突き刺された傷から溢れ出たのか、では早く塞がなければ。そう思って相手から手を離して、急いで頭を抱え込んだ。
傷口は、何処?

「逃げんなよ」

奴は床に叩き付けられたのか、小さくえずいた。
吐きたいのはこっちだ、と心の中で悪態をつく。本当に神経を逆撫でするような奴だと。
服の裾に、縋り付かれるような重さがぶら下がる。
それは奴の右腕だった。その先に這いつくばる奴も見える。

「俺はお前に、愛して欲しい。お前を愛してやりたい。
 ・・・でもな、駄目なんだ、ごめんな、」

どうしても、この世界じゃ許されないらしいんだ。


モノクロに包まれた部屋。そこに佇む一組の男女。
男の姿は、徐々にノイズに塗れて侵食されていく。マスターがワクチンを作成し、ダウンロードしたのだろう。
気付けば一方的に作られた透明な壁。服の裾から無くなった重さ。それが意味することはただ一つ。
壁を破ろうと必死に叩いてみても、その先に行くことは許されない。
何故なら自分は、正規のソフトなのだから―――。

いつの間にか、思考の渦は消え失せ、頭痛もすっかり無くなっている。つまり、もう残された時間は残り僅かしか無いのだ。
すると唐突に、壁越しに手が添えられた。ノイズに呑まれて、半分以上が灰色になった、自分とは違う大きな手。
色彩を取り戻している自分側の部屋が、目に眩しい。いっそこんな色、戻って来なければ良いのに。
声は分厚い壁と侵食していくノイズのせいで、ほとんど遮断されてしまう。
それでも聞こえてくるこの声は、消えかけながらも何だかんだで優しい奴が、脳内に直接響かせてくれているのだ。

「なぁ、グミ。
 最期にごめん、俺さ―――」

やっぱりお前の事、愛してるよ。

消える際に笑った男は、最後の最後まで、嫌な奴だった。
画面に表示された「complete」の文字列に、涙が浮かぶ。

「なんて、だっさい告白よ」


ひどくつたない告白



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あきゅろす。
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