真夜中の太陽の見る夢
「白夜、って知ってるかしら」

この空間に、言葉を理解出来るのは人型をした二人だけ。
よって片方が言葉を発した場合、必然的にそれはもう片方への言葉か、独り言になる。問いかけであった場合は、相手は特定され逃げ出すことを許してはくれない。

「・・・知らねぇよ」
「昼間にも太陽が出続けている現象でね・・・その時は一日中、その地域の空は白んでいるそうよ」
「・・・それがどうした」

恐らく本で得た知識だろう。破面はそうそう虚圏から出ることを許されないし、ネリエルは何故か外界に出ることを尽く拒んだ。
無駄に存在する大量の書物を読み漁るような物好きは、この虚圏にネリエルを除いて誰もいない。ただ、研究が絡んでくるとなると、ザエルアポロも珍種の仲間入りだ。
文献など下らない。そう考える虚圏の住人の筆頭とも言えるノイトラは、しかしながらネリエルの話には黙って耳を傾けた。

「私たちの住むこの虚圏も、ずっとこうして月が出て白んでいるけれど、それが世の摂理から外れているとはいえ、感動は起きないのよね」
「俺たちにとっちゃ、この虚圏こそが「普通」だけどな―――つうかお前、その白夜って奴を見てきたのかよ」

まさか、と小馬鹿にしたような、責めるような声が響く。その声色を聞いたネリエルは少しの間を空けて微笑し、そんな声を出したつもりは無かったとノイトラは苦渋の表情を浮かべた。

「行かないわよ、何処にも」

―――誰に向けての言葉だろうか?

「本にあった写真を見ただけ。それだけよ」

ノイトラが思考するよりも先に、ネリエルからの返答が頭を侵略する。
毒が染み込んでくるようなその感覚に、ノイトラは思わず刀を握った。
握って、それを向ける先も無く。大きく息を吸って脳を侵攻していた毒を振り払い、刀から静かに手を離す。
少しばかり冷静さを取り戻した頭で、先程の言葉の真意を思考する。
けれどこの頭は何を考えても、軽薄な考えに終わってしまう。それを知っていながら考えさせられるのは、他でもないネリエルの言葉のせいである。

「昼も夜も、まるで私たちみたいね」
「・・・俺たちは昼も夜も、判らないだけだろ」

一日中が闇に包まれ、真っ白な月は全てが白で構成されたこの世界を照らす。
月は沈むことも昇ることもしない。
真夜中、何処にも昇ることの無い太陽は、一体何を思考し続けるのか。

「私には、」

必要なのよ、と。
それでは一体何が必要なのかと、問える方法を知るほど、ノイトラは聡明になりきれなかった。


真夜中の太陽の見る夢



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