灰色の街の帰り道
色彩を失う。
それは傍らにいた、アイツの存在が無くなってから。居ない、と気付いた瞬間から、あっという間に世界はモノクロに変貌した。
無意識の内に出た舌打ちに、自分が相当焦っていることに気付く。

じきに辺りを張っているファインダーに気づかれるだろう。あんなひ弱な奴らにのされるつもりなど到底無いが、今の自分ならのされてしまってもおかしくない。
そう、今や煙草を口に銜えても誤魔化しきれない、それ位にはロードに依存している。

「っ、アイツ何処行った・・・っ!」

生来、ロードは自由気ままだった。
自分の思うままに動き、奥底には何かを秘めつつも奔放な性格に、泳がされたことは片手では足りない回数はある。
それ故に心理戦を得意としている上、失敗した時は味方にも容赦しない。AKUMAに関しては一族の中でも「無関心」の一言に尽きた。
だから自分の思うところがあれば、その通りに動く。
それに毎回毎回、死にそうな思いをしているのは、杞憂だと判っている。判っていながら、逸る気持ちを抑えきれずに動く体は、我ながら浅ましいと嘲笑できる。

「あれぇ、ティッキィーじゃん」
「・・・ろーど、」

辿り着いた路地裏は少し行った所で行き止まり、そこにロードは寄り掛かっていた。
くすりと笑いながら、ロードは壁から体を離す。徐々に戻ってきた色彩が、地面にこびりつく赤を捉えた。
壁に赤を飛ばしていないのを見て、今日は機嫌が悪かったのか、と今更気付く。

「ティッキー遅いから、ボク退屈だったんだよぉ?」

ほら、とロードが足蹴にしているのは、脱力した人間の体だ。それが纏っている服には見覚えがあった。
幾らか気は晴れているのか、ロードは俺の隣に並ぶと、服の裾を握って路地裏から引きずり出た。
妖艶に笑みを浮かべたかと思うと、首に手を回されて口付けられた。錆びた味のする唇を一舐めすると、無意味な高揚感が体を満たす。

「ティッキィ、帰ろっか」

楽しそうなロードにつられて、口角が上がる。
無駄にデティールの施された無機質な灰色の建物の中を、二人並んで通りすぎて行く。
点々と僅かに残る赤が、灰色の地面に良く映えた。
まさしく毒林檎のように赤いその跡は、この後に降ると予報された雨によって洗い流されるだろう。何故かそれが、惜しいように感じた。


灰色の街の帰り道




.

あきゅろす。
無料HPエムペ!