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残り香は腹八分目
「…てか何でお前がいるんだ」
「お構いなく」

「安心しろ誰も構っちゃいねェ」
「ケチ」




「…だから、何でそこで食ってんだよ」


土方の直ぐ後ろ、背中合わせの形で銀時は両手に抱えきれないほどの菓子と共に座っていた。


遡る事数分前


「おーい邪魔すんぜ」
「銀時?!」

思いがけぬ来客に土方は驚愕した。
勿論約束などしていない。むしろ忙しくて連絡も取れないほどだったのが…
何故?

「いやぁジミー君がおやつ余ってるから是非にって」
「……山崎の奴勝手な事しやがって…」

確かに菓子折りなどを貰う機会が多いのに対し隊士等の消費量は少ない。
戸棚の奥に暫く眠らせ結局無駄にしてしまうパターンも珍しくなく、そこで山崎は機転を利かし無駄にならない方法を選んだのだ。


「こんなに甘味があんのに皆食わないなんて、勿体ねぇなー」

次から次へと口に運ぶその背後で

「オイあんま食うんじゃねーぞ、糖尿」

仕事の手は緩めずただ背中にその重さと温もりを感じながら、たとえ無駄だと分かっていても土方は銀時に釘を刺した。



「仕事大変?」
「見ての通りだ」

「頑張れよ」
「ん」

「…俺邪魔?」
「別に」

「じゃあ居てほしい?」


「……若干」

「なにその微妙な感じ」
「いいから黙って食え」

「へいへい」


がさがさ、ごそごそ

もそもそ、もぐもぐ

音を立てながら大量の甘味を綺麗に平らげていく。
背中は触れたまま




暫くして




「はー…食った食った」

ついに甘味の山は綺麗に消滅した。

「…ってまだ仕事終わんねーの?」
「今日は徹夜だ」

「ふーん…じゃ、俺帰るわ」
「…あァ」

「寂しい?」


「……若干」
「でも仕事終わんねんだもんな、しょーがねぇ。頑張れよ副長さん」

「あァ」

そうして背中の熱はそっと離れ、消えた。









「……あ、」

思い出したかのように立ち上がる土方

(漏れるっつの…!)

そして厠へと猛ダッシュ

「はー…」

(アイツが背中にいたからな、)

立ち上がるタイミングを完全に失っていた。
本人はきっと認めないが、ただその触れる相手の熱を手放したくなかっただけの話。


「ふう、」

そして戻った自室は

「…くせェ」

歯が疼くほど甘ったるい匂いが充満していた。


(どんだけ食ったんだよアイツ)

色々な匂いが混じりに混じって吐き気がする。

(…何食ったんだ?)

チョコレート
饅頭
煎餅にプリン
大福も数種類

(幸せそうに悔いやがって、あの糖尿め)

背中に残る感触と耳に残るその声が、鼻をつく甘い香りと共に迫ってくる。

(こんな甘いのよく食うよな)


甘い甘い
銀時の匂い

いつも纏っている


甘い


(ってさっきから何考えてんだ俺、仕事しねェとだろ)

銀時の置き土産、残した甘い香りにすっかり嵌り意識を奪われてしまった。

このままではいけないと土方は解っている。
きっと抑えられなくなって…会いたくて堪らなくなる
若干じゃなくとてつもなく。


(…換気、すっか)

窓を開け新鮮な風を取り込んだ。
それは勢いよく部屋を吹き抜け甘い匂いは次第に薄くなり、火を点けた煙草の匂いに完全にかき消された。


(…あの匂いは程々にしねーとやべェな)


まるで麻薬のように
吸い込めば吸い込むほど体は毒され夢中になる。


抑えても

抑えても

止められない


甘い

甘い


銀時の跡



それが


欲しくて堪らない。



残り香は腹八分目



終わり



桐生院まこと様
お題ありがとうございます!


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