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涙の意味を知りたくて
久しぶりに仕事が舞い込んできたかと思いきや…
その依頼人は、最早依頼「人」ではなかった。


「霊…いやいやいやスススタンドォォォ?!」
「なななな何でこんなところに…?!」
「どこに居るアルか?」

「……」

透ける容姿
真白い空気
そして…何より二人にしか見えていない。まさしく夏の夜の風物詩…いや、依頼者であった。

「とととととりあえず落ち着け、落ち着こう」
「おおおお落ち着くのはぎぎぎ銀さんの方ですよ…っ」
「だからどこに居るアルか」

「…」

記憶の底に在った仙望郷での出来事が一気に蘇る。
あれは相当やばかったなー…と思い返しながら銀時はやっとの事で平静を取り戻していった。


「とりあえず…君、名前は?」
「ユキです」

「ユキちゃんね。歳はいくつ?もしくはスタンド歴でも可」
「16です。…スタンド?」

「あー…じゃあ後何かプロフィール的なものを」
「江戸に住んでました。生まれつき体が弱くて入退院を繰り返して…」

「そうか…」


そうして幾つかの質問を経て大体その人物…いや霊が掴めてきた。
が、根本的な疑問が残っていた。

「何でまたこんなところに来たんだ?」
「……」

「気付いたら居たーとか?」
「はい」

「まじでか」
「銀さん…やっぱり銀さんには何か霊…スタンドを寄せる力があるんですかね」

「嬉しくねーよ」
「ほら後ろに沢山」

「ぎゃあああああああ!!!」
「冗談ですよ」
「テメっ、新八のくせに…っ!」

「ねぇ銀ちゃんユキちゃんどこに居るネ」

「……」


そんなわけで、迷える子羊…いや、霊を成仏させるべく彼女を笑わせたり歌ったり色々捧げてみたものの、どれも大した効果が無かった。

「こんなに笑っても駄目なのかよ…」
「どうしたらいいんですかね」
「銀ちゃんの歌にソウルが足りないアル」

「何言っちゃってんの、銀さんソウルフルに歌ったじゃん!」
「…何か他に要因があるんじゃないですか?」
「よーいんアルか?」

「なるほど、この世に何かやり残した事があるのかもな。で、どうなの?ユキちゃん」

「……」

じっと黙ってなかなか口を開かなかったが、

「話したくないなら無理には聞かねぇけど、話したら少しは気持ちが楽になるぜ?」

銀時が何気なく見せた柔らかい表情に霊は自分を預けられると感じたのか、透明に透けた手をゆっくり差し出した。

「口で言うのは恥ずかしいので…見てもらってもいいでしょうか…」

「?」

その指に手を伸ばし空気に触れると、一気に彼女の記憶が流れ込んできた。

「なん…っ」



一面に映る景色はきっと彼女の自宅の庭
病気で外に出られずいつも部屋でじっと外を眺め…
ベッドサイドには何冊もの本が積まれていた。
恋愛小説
素敵な恋の話を読みながら思いを馳せ、
いつか自分もこんな恋をしてみたい。憧れのあの人に抱き締めてもらえたならば…

「え、まさかコレ」
「この人って」

資産家であり政府関係者である父親のボディガードで何度か見かけた、憧れのあの人に…

「ひじ…かた…?」


事態は一気に急変した。




「小さい頃からずっと療養してたので変に夢ばかりみてしまって…土方さんと一度お話してみたかったのは事実ですが、でもまさかそれが成仏出来ない理由になるなんて…」

透明な顔を空気ごと赤く染めあげる霊は、霊と呼ぶには申し訳ないくらいの可愛い少女だった。

「どうします?銀さん…」
「弱ったな、まさかあいつが関わってるなんて…」

ただ単に「男性」というカテゴリなら二人にもまだ手の施しようがあったが、まさかの人物がそこに食い込んでいる。
土方
泣く子も黙る真選組の鬼副長にして、銀時の因縁のライバル
出くわす度に喧嘩勃発
一触即発
起こした乱闘は数知れず…

「恋じゃなくて実は恨みで、アイツをぶん殴りたいっつープランにしねぇ?」
「銀さん、勝手に記憶を改ざんしないで下さい」

「だってよー…」

何でよりによって、とブツブツ唱えてみたものの、この状況を打開する方法はそれしか思い付かない。

「しょうがねェ」
「銀さん、」

「ユキちゃん……ついておいで」

「……はい!」

銀時と新八、そして半透明な少女はある場所へと向かった。











「着いた」
「…此処は?」
「真選組の屯所です。中に土方さんがいますよ」

「…!」

その意図を理解しそわそわする少女に「大丈夫だからそんな緊張すんなって」と笑いかけながら、門番へと近付いた。

「よ」
「あ、旦那。こんにちはー」

「あのさー今日マヨネーズ野郎いる?」
「居ますよ、呼んで来ましょうか?」

「ん、いいや俺が行く」
「分かりました、ではこちらから中へどうぞ」

どしりと佇むその門を難なくクリアするどころか門番との手馴れたやりとり

「あぁ、僕達ちょっとした知り合いなんですよ」

目を丸くする少女に気が付き新八が言葉を添える。

そして

「この中にお目当てのマヨネーズ野郎…じゃない、王子がいる筈」

緊張と胸の昂りで今にも泣き出しそうな少女が落ち着くのを待って、トントンと襖を叩いた。

「…あのー…」
「誰だ」

「…ユキちゃんとそのオマケです」
「はァ?」

「とりあえず中入っていい?てか入るぞ」
「その声は…」

ガラリ
襖を開けるとお目当ての男が山盛りの書類に塗れていた。

「…けむっ!換気しろよ換気!」
「別にテメェには関係ねーだろ」

「まぁそうだけど。でもお前コレ窒息すっぞ」
「放っとけ。てか何の用だ。二人で漫才でもしにきたのか」

「あー…その、もう一人メンバーいるんだけど見えてたりしねぇ?」
「は?何言ってんだ」

「…チッ」

残念ながら土方には霊の姿が見えていない。

「こいつにもユキちゃんが見えてたら話は早かったんだけどなぁ…」

仕方ない、と覚悟を決めた銀時は

「新八、俺は今からユキちゃんに体貸すからお前から土方に事情説明しといてくれ」
「え、銀さん大丈夫なんですか?!」

「まぁどうにかなるだろ、きっと」

それしか手が無い。そう思った銀時は仙望郷での幽体感覚を呼び覚ましながら、目の前の少女を、霊を自らの体に呼び込んだ。









「……あ」

暫くすると半透明になった銀時がするりと体から出てきた。

「すごい銀さん、もうすっかりプロですね」
「ンなの嬉しくねーよ」

にしても不思議な感覚
目の前にいるのは自分の姿をした自分じゃない人間…

「……」

一方、新八から一通りの説明を受けた土方は半信半疑で銀時をジロジロと睨んでいた。


「コイツは、今もうその'ユキちゃん'なのか?」
「えぇ」

「…変わったようには見えねェが」
「ひゃあああ!」

「?!」

姿形はちっとも変わっていないが、一歩近付いただけで目をぱちぱちさせ挙動不審になる様はとても演技とは思えず、あぁこの子は万事屋ではなく本当にユキちゃんなんだなと理解し
そして

「あそこの娘さん、体が弱いのは知ってたが亡くなっちまったんだな…まだ若ェのに…」

目の前の銀時に視線を向けながらも、少女に呼びかけるように手を伸ばした。


「…っ」

背筋をこれでもかって程そらし、顔を…耳を、全身を赤く染めあげ今にも気絶しそうな銀時…の姿をした少女

「ちゃんと立っとけ」

優しく耳元で呟き、ぎゅうと抱き寄せた。

「…」
「…」

傍から見たら土方と銀時が抱き合ってる、の図
「うわー…」と最初は顔を顰めていた銀時だが、次第に…
言葉を失くしていく。



「小さい頃からずっと闘って、えらかったな」



「屋敷に何度か足を運んではいたが…何も気付かなくてごめんな」



「生まれ変わったら、今度はきっと素敵な恋が出来る」



「会いに来てくれてありがとう」



土方がぽつりぽつりと零す言葉の一つ一つが胸に刺さる
抱き締めているその手は今すごく温かいんだろう、そう思いながらぼんやり見つめていると…
視界が真っ白になった。


「土方さん、ありがとうございます」
「…俺は何もしちゃいねェよ」

「新八さん、ありがとうございます」
「いえ…生まれ変わったら是非僕と友達になって下さい!」

「銀時さん…」
「…ん?」

「私、今すごく幸せです」
「そりゃあよかった」

「だから、銀時さんも幸せになって下さい!」
「あぁ」

「体お借りしてて、気付いちゃいました」
「…何を?」

「それは私の口からは言えません」



「…バレたか」
「ちゃんと言わなきゃ駄目ですよ、土方さんに」



「…そうだな」
「じゃないと私成仏出来ませんからね」



「…ん。頑張るよ」
「銀時さん…」



「…ユキちゃん?」
「銀時さんに出会えてよかった……私、お二人の事見守ってますね!」


ありがとう、
その言葉と同時にぱぁっと光が漏れ、少女は姿を消した。







「無事成仏…出来ましたね」
「そうだな」

「最後、笑ってくれましたね」
「…そうだな」

「銀さん?」
「…ん?」

「どうしたん…ですか?」


「……」


魂を取り戻した銀時の目には、大粒の涙が溜まっていた。

「銀さん……」

それは直ぐに溢れどんどん流れ落ちて止まらない
止まらない
何度拭っても、止まらなかった。



「…何でお前が泣いてんだ」
「うるせぇ。てかいつまで抱いてんだ、もう中身戻ったんですけど」

「いや、何となく…」

その態勢を保ったまま、土方は子供をあやすかの様に銀時の背中をぽんぽんと叩いた。

「ちょっと今涙腺弱いからそうゆう事しないでもらえます?」

そうゆう事…
優しくするな、
遠回しにそう訴えても土方には通じない。


「何で泣いてんだ」
「…」

「…オイ」
「…」

「泣き止むまで離さねーぞコラ」
「……う」


「!」


ぶらりと垂れ下がっていた銀時の腕が土方の腰に回る。
泣き顔を隠そうとしたのか涙で崩れた顔を正面の肩口に埋めその圧力は段々と増し、それ以上何も言わない銀時を土方は強く抱き締めた。

「何でテメェがそんなんなってんのか…ちゃんと言うまで離さねーからな」








「…」


少女と約束し気付かされた、今自分がすべき事

逃げてはいけない
後悔してはいけない

無理とか無駄とか無謀とか
そんなの後回し



「……観念しろや」


素直になって自分の本当の気持ちを告げようとする銀時に、土方は抱き締めたまま何度も問いかけた。



涙の意味を知りたくて




終わり



千洋様

お題ありがとうございます!


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