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第二ボタンと合鍵
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「…ん」

暑い、と無意識に体を捩じらせその熱から離れようとしたがその対象物が布団ではない事に気が付き銀時はそのまま仰向けの姿勢でゆっくりと目を開けた。

「…」

段々と意識がはっきりし頭上の違和感を探れば思った通りの感触
途中まで腕枕をしてくれたであろうその腕が寝息と同じリズムで揺れているのを感じながら、時計を見やればいい時間を指していたので「もし起こしてしまっても怒られないだろう」と知恵を働かせそのまま裸の体に抱きついた。

「…ん」

空いた片手で頭を撫でられ、てっきり起きたのだと思いきや意に反して相手にそれ以上の反応が無い。

「寝てんの?」
「…」

寝惚けてコレかよ、と無意識の仕草に銀時の体はじわりと熱を上げ…

そして

「…ん?」

漸く土方が目覚めた時には、待ちかねた銀時がその胸の中にすっぽりと埋まりすやすやと二度寝の淵を辿っていた。




「おはよう」

ちらりと覗くおでこにそっとくちびるをあてそのふわふわの髪を梳くと、銀時は体を震わせぱちりと目を覚ます。


「…あれ?俺今寝てた?」
「おはよう。よく眠れたか?」

「なんか…いつの間にか寝てた」
「あァそうだったな。いつの間にかっつーか最中?お前啼きなが「違う違う俺ちゃんと最後まで覚えてるし!!」

「…クッ」

意地悪く笑う土方にまんまと喰われ銀時は体中から蒸気を滲ませた。


「にしてもびっくりしたぜ。まさかお前が来るなんてな」

「…だって今日が最後じゃん」
「そうだな」

「先生…俺って確か留年だったよね?」
「ンなわけねーだろ」

「成績やばかったじゃん」
「俺がみっちり追試してやったろが」

「あ、成績じゃなくて出席だ出席。俺足りてなかったし」
「安心しろギリギリ大丈夫だ」


「……ケチ」
「諦めて卒業しろ」

ついに迎えたこのよき日に、銀時は母校である銀魂高校から巣立とうとしていた。





遡る事数時間前。

「おま、何でこんな時間に…」
「先生、眠れない」

教師と生徒、の関係から抜け出せず過去一度きりしか足を踏み入れた事のない土方の家に銀時が押しかけた。それも真夜中に。

「明日卒業式だろ。早く寝ろ…てか、何で此処に、」
「卒業の事考えたら全然眠れなくなって、それで、」


「…分かった、中入れ」

まるで捨てられた子犬のように体を震わせ今にも泣き出しそうな銀時を、抱きかかえるようにして部屋へ入れたものの…

「お前…確信犯だな?」
「え、違うたまたまだって、たまたま」

ちゃっかり制服やら鞄を持ってきているところを見るとまんまと土方は嵌められたようだった。

そんなお調子者の銀時ではあったが眠れないのは嘘ではない。

「先生」
「何だ?」

甘えるように土方の布団に潜りこんだ銀時は遠慮がちに何度もその名を呼んだ。


「卒業したら先生と毎日会えなくなる」
「…しょうがねェだろ」

「やだ」
「別に今生の別れじゃねんだから、また会える」

「…いやだ」
「我儘言うな」

「じゃあ先生、卒業しても俺と会ってくれる?」

「…お前がイイ子でいたらならな」

そう言い布団の中で土方は銀時を抱き寄せきつく腕を締めた。

「…先生」

銀時はそれが嬉しくての腕の中で大人しくなる。

「先生…」






教師と生徒
素行の悪い生徒を何度も指導しているうちに生徒は教師に興味を持ち、恋をした。
取り巻きの女子より本気である事を自覚した生徒は、せめて近くに居られたらと恋をひた隠し…
懐いてくる教え子を教師は勿論突き放したりなどしない。

その距離はみるみるうちに近付き交差し、ついに隠し切れず捨て身覚悟でその体を抱き締めたらそれよりも強く温かく抱き返された。

捧げられるものは何でも
受け止めてくれるのならば何でも
そうして此処までやってきたがそんな時間もいよいよ終わり。銀時はついに卒業を翌日に控える夜を迎えた。


(明日なんて来なきゃいいのに…)

進路も無事決まりあとはただ学び舎を巣立つだけ。

(…卒業したら、俺どうなるんだろ)

聞けない。

(そんなん聞いたらきっと突き放される…)

何も考えたくなくて
この関係の終わりを知りたくなくて銀時は必死に眠ろうとした。けれどそれは頭の中をどんどん浸食してもうどうする事も出来ない。手に負えない。


(今日だけ、許して先生…)


うろ覚えではあるが確かに脳裏に在る道を辿り思い描く相手の家へ…



そして今に至る。




(…あったかい)

土方の体はしっとりと温かく、布団が覆えば暑いくらい。

(卒業したら、もうコレも出来なくなっちゃうのかな)

一度として土方の気持ちを聞いた事がない。
この関係の意義も真実さえも…とてもじゃないけど、聞けない。




「坂田、風呂使っていいから入って来い」
「…うん」

言われるがまま起き上がり浴室へと向かい、汗でバサバサになった髪を洗い体に付いた精液と唾液の痕を惜しみながら流し、後始末を綺麗に済ませた。胸元に赤く浮かび上がる痣をなぞり、溢れる涙をシャワーの水粒にひたりと隠しながら。






「タオル、わかったか?」
「大丈夫」

「何か足りないモンとか欲しいモンとかあるか?制服と荷物はあるとして」
「ん、平気」

綺麗さっぱり洗い流して体はすっきりしても、胸にこびり付くもやもやはどうしても取れない。


「欲しいのは先生だよ」
そんなクサい台詞が言えたらどんなにいいだろう、そう思いながら銀時は床に腰掛けドライヤーを受け取った。



「すまねェが先に出るな」
「え、もう?」

「卒業式の準備があってな」
「…そっか」

あと数時間後には卒業の式典が執り行われる。
それが終わってしまえば教師にとって生徒は元教え子という名の殆ど他人になって…

「そこにメシ置いてあるから適当に食っとけ」
「!」

「皿は洗わなくていいから」
「…ありがとう、先生」

テーブルの端にあるおにぎりとインスタント味噌汁から視線を土方に移し、「式典用のスーツ姿格好いいなぁ」とぼんやり玄関を見つめた。




「ガスは確認したから、電気とー…あと戸締りよろしく」
「分かった」

「じゃあ、後で学校でな。遅刻すんなよ」
「大丈夫だって、」

「じゃあ」
「―――あ、先生」

「何だ?」
「此処、鍵はオートロック?」

「いや、違うが」
「そしたら鍵いるよね?」


「…」

「…先生?」

「……」
「鍵、俺が閉めるん…だよね?」

おずおずと呟かれる銀時の言葉に土方の態度が急変した。
身に覚えのない銀時は何かまずい事言ったのかと不安にさえ思ったのだが、

「家出た後すぐメールするつもりだったが」
「…え?」

「制服」
「制服?」

「上着のポケット」
「……?」

言われて銀時が上着のポケットを探ると


「…鍵」
「…」

「何の鍵?」
「ウチのに決まってんだろ」

「だよね。じゃあこれ使って閉めて…学校で返せばいいよね」
「いや、いい」


「…?」


「やるから持っとけ」
「え、でも、」

「ついでにその上着」
「…え?」

「猿飛あたりに奪われる前に貰っといたから」

「…あ、」

そこには、あるはずのものが一つ無くなっていた。


「俺は古い人間なんでな。そういう迷信を信じるタイプだ」
「…先生、俺のこと好きなの…?」

「好きじゃなかったら始めから抱いたりしねェ」
「じゃあなんで今まで、」

「…我慢させて悪かった」


「…せんせ…」
「俺はお前を、抱えてやる事も突き放す事も出来ない、ずるい男だった」

「でも俺は先生の事好きだから、」
「いや、お前が俺をじゃなくて…俺がお前を好きなんだ」

「…先生…っ!」


「卒業おめでとう」

「…ありがとうございます」

「この第二ボタンは俺が貰っていいんだろう?」
「勿論!」

「支度、すぐ終わるか?」
「すぐ終わらせる!!」



そうして晴れて恋人同士になった二人は、穏やかな春の陽気の中一緒に学校へと向かった。


銀時はめでたく銀魂高校を巣立ち―――教師と生徒ではなく、赤の他人でもなく特別な関係をもって新たな道を歩みだす。



第二ボタンと合鍵



終わり



真美様
お題ありがとうございます!


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あきゅろす。
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