その日僕らは笑ってて。 ※3Z未来捏造:土方が卒業後、教育実習生として母校へ…※ 「卒業以来か…」 四年振りに足を踏み入れたそこは、俺らが過ごしたあの場所であって、あの場所ではなくなっていた。 「こんなだったっけ」 改めて思い返しながら、駐輪所、グラウンド、昇降口、階段そして廊下を歩み…懐かしさの混じった変な感覚のまま俺は校長室の戸を開けた。 「おぉ、久しぶりじゃのー」 「ご無沙汰してます」 俺を迎えた校長は、相も変わらず薄紫の変な触覚を揺らしている。 「校長の余が言うのもなんだが、君らの学年個性的な生徒ばっかでのー…今回教育実習は君一人だ」 まぁ…そうだろうな。 母校で教育実習しようだなんて、それ以前に教職課程を履修するような奴あの学年には居ないだろう。 てか皆無事でやっているのか? 堅実とは程遠いぶっ飛んだ発想と恐ろしい感性のぶつかり合いだった、泣く子も黙る問題クラス そもそも担任が率先してちゃらんぽらんってのが… 「あ、」 「ん?」 「俺が教わった先生とか、まだいます?」 アイツはちゃんと教師続けているのだろうか 「そうじゃのー…何人かは出たけど、殆ど変わってないぞ」 「そうですか」 これから職員会議だからとりあえず行こう、と連れ出され… 会議室に入るとふわふわの銀髪が真っ先に目に入った。 「銀八…!」 いた、あの時の、俺の担任 「おー……」 「…」 「……」 ん? 「銀八…先生?」 「君、誰だっけ?」 …俺もう帰っていいですか 「おーい。あれは冗談に決まってんだろ、ちゃんと覚えてたってば、多串君だろ?」 「…」 「ほらほらそんないじけんなって、飴やるから、な?」 「…」 「だから、その怖い顔よせって、」 「これは元からです」 「あ、そう…」 久々の再会で思い切りコケた俺は正直立ち直れる気がしなかった。 その性格、いい加減具合は解っていた。物忘れ…というよりはきっと物事を深く考えていない、ましてや過去をいちいち顧みるなどしない事も。 けれどいくらなんでもこれは、 「土方、機嫌直せって」 「別に拗ねてなんかないです」 「ホラそれが刺々しいじゃんー」 「…」 暫くそんなぐだぐだなやりとりを繰り返すうち、 「…!」 後ろから不意打ちで抱きつかれ、俺はまんまとその上手な男に絆される事となった。 「にしても、懐かしいな。お前いくつになったんだ?」 「22です」 「うわーもうハタチ越えかよ」 「いつまでもガキだと思ってたら大間違いですよ」 「…だな」 直ぐ離れると思っていた背中の熱が更にくっついてきて、体中が否が応にも火照りだす。 「元気だった?」 「…はい」 「アイツらは?ゴリラとか元気にしてんのか?」 「あのまんまですよ」 卒業してからはさすがに会う回数は減ったものの、近藤さんや総悟、山崎とはいまだにつるんでいて皆相変わらずだ。 「なに、土方お前教師になりたいの?」 「別にそういうわけじゃないですけど」 「まー…資格取んなくても勉強しとくのはいい事だ、うん」 こちらも相変わらずというか、独特のリズムは四年前と全然変わっていない。 なんか…本当に懐かしい。 「あのクラスはマジでおかしかったよなー」 「確かに」 「揃いも揃ってあんな強烈なの、多分この先もねーぞ」 「…俺もそう思います」 俺が在籍し銀八が受け持った四年前のZ組。 堂々と早弁したり好きな相手のリコーダー盗んだりやたら喧嘩っ早かったり、バイオレンス且つSとM両極端、アイドルオタク、変人、ストーカー、変態、非人間…何でも勢揃い 今となってはどれもいい思い出だ。 「喫煙する奴もいたしね」 「…そうでしたっけ?」 痛いところを 「そして極めつけは、」 「…?」 「こんなどうしようもない担任に惚れちまった奇特な奴とか」 「…」 「そいつ、元気にしてるかねぇ」 「……何とか元気でやってると思います」 「新しい恋、出来たかね?」 「それはどうだか」 「…ふーん…」 「…」 あの日あの時間がどんどん蘇ってくる。 「楽しい?大学生活」 「まァそれなりに」 「楽しかった?高校生活は」 「それは勿論」 「……四年前はまだまだガキんちょだったのにな」 「…」 「いっちょまえにスーツなんか着ちゃって、大人になって…お前が此方側にくる日が来るなんて先生びっくりしたっつーの」 …可愛い あの時のまま、全然変わらないな銀八は。 俺も変わったのは図体ばかりで中身はただの… 「先生」 「何?」 「…もっと驚く事言ってもいいですか?」 「…はい?」 「丸三年かけてやっと落ち着いてた奇特な病が…アンタが抱きついてきた所為で見事に再発したんですけど」 「…マジでか」 「やっぱ好きだ、アンタが」 俺の恋もあの時のまま 気の抜けたホームルームで一日が始まり授業中はその横顔を見つめ、休み時間の度準備室に押しかけたまに屋上に居るのも知っていたから何度も足を運んだ。 煙草がばれた時はどうしようかと思ったが「学校では吸うな」というだけで咎めることもなく代わりにパシられ…どこまでも教師らしくない男に、当時の全てを持って行かれていた。 「銀八、今付き合ってる人いんのか?いねーだろどうせ」 「…嫌味?てか言葉と態度急変してね?」 「二週間でアンタを変えてみせる」 「え、何その自信。てかマジで豹変しすぎだからお前」 大人になりすましたよそよそしい態度はもうやめて、もう一度この人に真正面からぶつかりたい。 「一瞬であん時の感情がぶわって来た」 「オイオイ勘弁しろよ」 あの時の感情はやっぱり気の迷いでも若気の至りでもなかった。 アンタは「一時的なものだ」と俺を突っ返したけど間違ない、真剣な恋だったんだ。 「てかマズイだろ…」 「何が」 「十代のガキ、教え子、ただの気まぐれ」 「は?」 「俺のあん時のいいわけ、覚えてるか?」 「…まぁ、」 「あれでも必死に我慢したのに、今どれも使えねーじゃん」 「…」 我慢? 「あー…その、男と付き合うなんて未体験だからちょっと色々怖ぇかな」 「……?」 「ま、頑張れよ」 俺がその意味を理解する前に、銀八は白衣を翻し静かに出て行った。 さっきの言葉… (あの時のって、) 必死に台詞を思い出す。 ―――お前まだ18だろ?こんなオッサン相手にしてんじゃねーよ どうせただのきまぐれだ てか教え子とどうこうなるのは俺の教師道に反するから無理無理――― ひょっとして今なら少しは可能性があるって事か? 追いかけていいのか? てか追いかける。開き直った自分がちょっと怖いくらいだ。 「銀八、」 取り残されたその部屋で、勝手に銀八のデスクに腰掛ける。 いつも銀八がここに座って正面に俺が居て、授業の質問と偽ってよくたわいもない話をしたっけか。 その時はそんな方法しか思いつかなかったが… 「覚悟しとけよ、銀八」 次から次へと蘇る想いと楽しかった日々が、甘い香りの漂う椅子の上あの時の俺の台詞とともにくるくると駆け巡った。 「銀八、好きなんだけど」 頭の中鮮明に蘇る、あの瞬間をもう一度 胸にハッピーエンドを誓って。 その日僕らは笑ってて。 終わり な。様 お題ありがとうございます! ←戻 |