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とどのつまりは、志村をそんな風に好いている。だが今もっと違う形で志村と向き合っていきたいと今の志村に伝えるのはとんでもないと坂田は思う。ただでさえ一人違う土地へ行く事を不安に思っている志村だ。これ以上混乱させてはいけないと坂田は思う。

しかし、今自分が励ましに使う言葉と言えば、いつだって自分は志村を受け入れる事が出来るといった主旨の台詞であって、坂田が今志村に思っている気持ちと同じだ。

「すみません先生。少しだけ安心しました。ありがとうございます」

何か良い言葉はないものかと坂田が頭を捻っていると志村が先に口を開いた。

自分の為に言葉に詰まり困っている坂田を気遣い、ぺこりと律儀にお辞儀をするその仕草に、坂田はこんな人の良さと素直さが志村の可愛らしさだとそう思った。

教師と生徒。しかし全てを取り払いそれをただのきっかけと思えば、次の言葉は頭で悩むよりも、先ずは言葉に出すべきなのかも知れないと、素直に自分を表現する志村を見て坂田は思った。

「あのな〜志村。ちょっと聞いて欲しいんだけど…」

口を開いた坂田の心は思ったよりも落ち着いていた。そして志村の視線はやはり素直で真っ直ぐに坂田だけを見つめていた。



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あきゅろす。
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